3月から調教師に転身する福永祐一騎手(46)が、JRAラストウイークを迎えた。来週末はサウジ遠征のため、今週土日が中央競馬でのラストライドとなる。連載「ジョッキー福永祐一と私」では2週にわたり、ゆかりの深い関係者が思い出を振り返る。

 ◇  ◇  ◇

「無敗の3冠馬なんて一生に1度の馬」。矢作師はコントレイルとの日々をそう振り返った。その道のりで課題にも直面した。折り合い、ゲート…。克服のため繰り返された議論には、福永騎手も加わった。不思議と衝突はなかった。

矢作師 そこがあいつのいいところなんだけど、人を否定しない。人の意見を否定しない。なるほど、そういう考え方もあるのか、でも僕はこう思います、となる。祐一は調教師だけでなく、厩務員、調教助手をリスペクトしている。そこが人間的に素晴らしい。

「彼は理詰めで乗るタイプ」と評する。普段の調教から互いの意見をすり合わせ、理詰めで作り上げていった。その過程で、福永祐一の人間性が垣間見えたと師は感じている。

矢作厩舎&福永騎手のコンビは、JRA通算157戦30勝(17日現在)。その中にはリアルスティールも含まれる。福永騎手は2勝を挙げたが、15年皐月賞2着、ダービー4着、菊花賞2着だった。

矢作師 あの頃は、祐一と戦うんだと思っていた。同時に、頼りなさを感じる部分もあった。替えたらどうか、外国人を乗せたら-そういう意見もあった。

5年の時を経て、無敗3冠を達成。リアルスティールからコントレイルへ-。その5年の間に、福永騎手はワグネリアンでダービーを勝った。ターニングポイントだった。

矢作師 大きなレースを信頼して任せられるようになった。コントレイルに関しては(替えたらという)そういう意見は出なかったね。それはやっぱり、そういうことじゃないかな。

人を否定しない人間性、理詰めの考え方は、これからの調教師人生に役立つと師は確信している。

矢作師 感性は必要、同時に理詰めの部分がないと駄目。いろんなバランスを取って、彼はそれが出来るのではないか。それだけの考え方と経験がある。

いい調教師になると思うか-その問いには、愛情あふれる言葉で答えた。

矢作師 あんまり勝たないでくれ。地味にやってくれ。俺が引退するまでは(笑い)。【網孝広】