横山典弘騎手(28)騎乗のサクラローレルが、2強から現役最強馬の称号を奪い取った。ナリタブライアンとマヤノトップガンの対決で沸いた天皇賞・春で、横山典騎手は前半は中団につけ直線勝負。失速したトップガン、粘るブライアンを並ぶ間もなく差し切った。ど派手なガッツポーズでゴールし、1996年の主役はオレだ! とアピールした。

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勝負どころの3コーナー下り坂、サクラローレルの横山典は、前を行く2強を見ながら自分に言い聞かせた。「まだ先だ、仕掛けはまだだ」。好位の内からトップガン、馬群の外からブライアンが上昇した時、抜群の手ごたえがあった。だが、焦らない。初騎乗した前走の中山記念優勝でつかんだ「我慢すれば、すごい脚を使う馬」という持ち味を最大限に引き出すためだ。

2頭の後ろでジッと息を潜め、仕掛けをワンテンポ遅らせた。4コーナーを回って2強が競り合うように先頭に立つのを見て、初めて右ムチをたたきつけてのゴーサインだ。直線半ばでトップガンが失速、だれもがブライアンの圧勝かと思った瞬間、横山典はためにためていたエネルギーを爆発させた。並ぶ間もない。どちらが最強馬なのか。ラスト100メートルでかわすと、あとは独走。「やった」。勝利を確信した横山典は、ムチ連打をやめて右手で手綱を持ち、左手を浮かせた。ゴール前5メートル地点から左手を上げ始め、投げキスをしてそのまま空へ突き上げた。

「格好良く勝ちたい」がモットー。さらに馬から万歳しながらジャンプして下りた。大パフォーマンスの横山典は「うれしいね。ブライアンをかわした時に勝ったと思ったよ」と振り返った。

前半は馬群の後ろにつけてリズム良く進むことに専念した。向正面で先行争いが激しくなった時も、2強の動きを冷静に見た。「大歓声を聞いても全然引っ掛からなかったし、3コーナーでうまく馬群をサバけたのが良かった」。騎乗馬の能力を出し切った満足感が次々に言葉になった。

「(直線は)すごい瞬発力だった。意外にあっさりかわせるもんだねえ。2強と呼ばれていたけど、この馬はまだ勝負づけは済んでいないと思っていたよ」と横山典。勝ったからではなく、レース前から自信を口にしていた。この自信こそが持ち味で「いつもオレの馬が一番強いと思って乗っているよ。そう思わなくちゃ勝てないだろ」が口癖になっている。

強気の裏には、馬に対する人一倍の愛情と研究熱心がある。17日朝の追い切り後にはきゅう舎を訪れ、夕方まで馬房の前で過ごした。「馬のそばにいることが趣味」と言う。中山記念優勝の夜には、それまで騎乗していた小島太師(49)と「この馬はすごい」という話となり、特徴を聞くうちに朝になった。

昨年、6年連続最多勝の岡部幸雄(47)を抑えて初のリーディングに輝き、今年も独走中。父の富雄助手(56=元騎手)は1969年(昭44)秋をメジロタイヨウで、71年春をメジロムサシで勝っており、天皇賞父子制覇も達成した。「今までG1は勝っているけど、本当のG1は初めて勝てた気がする」。今年の顔となる横山典の次の目標は騎手になった時からの夢、サクラスピードオーでのダービー制覇だ。【栗田文人】

◆サクラローレル ▽父 レインボウクウェスト▽母 ローラローラ(サンシリアン)▽牡・6歳▽馬主 (株)さくらコマース▽調教師 境勝太郎師(美浦)▽生産者 谷岡牧場(北海道・静内町)▽戦績 17戦7勝▽主な勝ちクラ 95年日刊スポーツ賞金杯、96年中山記念▽総収得賞金 3億3972万7000円

(1996年4月22日付 日刊スポーツ紙面から)※表記は当時