ゴールドシップなどの名馬を担当した今浪隆利元厩務員(64)が、夢いっぱいの競馬人生を振り返る、手記連載「今なお夢の中」(全5回)。第3回はゴールドシップ後編。

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ゴールドシップの引退式(※)では涙を我慢できませんでした。始まる前は泣くとは思ってなかったんです。「今日で担当できるのも最後やな」とか、さみしい気持ちはありましたが、シップを引いて馬場に出てきた時もまだ大丈夫でした。

胸がいっぱいになったのは、ファンの人たちの声がじかに聞こえてきたからです。レースで負けた後なのに、寒い中で何万人も残ってくれていました。外ラチの方へ行ってスタンドの真ん前を通った時に「今浪さん、ありがとう!」とか「ご苦労さま」とか言葉がはっきり聞こえて…。ちょうど涙をふいた時に、それがターフビジョンに映ってしまって、ちょっと恥ずかしかったです(笑い)。いうことを聞かないのは最後まで同じで、写真を撮る時もさんざんごねられました。

いろんな経験をさせてもらいました。フランスへ行って凱旋門賞にも出ました。今から思えば、あの時だけはおとなしくて、仕事が一番やりやすかったです。緑ばかりの景色で、牧場にいるような感じだったのかもしれません。調教へ行く途中に後ろをついて行ったら、速歩で行かれて僕だけ置き去りにされ、森の中で迷子になったこともありましたが…(笑い)。あの時は来た道を引き返して、なんとか帰ることができました。

シップは僕にたくさんの夢を与えてくれました。今は産駒の活躍も楽しみです。種牡馬になってからは、芦毛の馬を見かけると「アイツの子供かな?」と調べたりします。今でもやっぱり気になります。

僕がツイッター(現X=アカウントは@TAKATOSHI_Gship)を始めたのも、ファンの人が撮ったシップの写真を見たいと思ったからです。それで元気なのを確認できますから。最初は息子にやり方を教えてもらい、今は5万人以上もフォロワーがいるみたいで…。それがすごいのかどうか、今でも分かりません(笑い)。

今月はシップに会いに北海道へ行きます。アイツが健康なのを自分の目で見て確かめられれば、それだけでいいんです。これからもまずは元気で長生きしてほしいと思ってます。

※15年12月27日に中山競馬場で最終レース終了後に行われた。ラストランとなった直前の有馬記念は1番人気で8着(勝ち馬ゴールドアクター)。当日の入場人員は12万7281人。

◆今浪隆利(いまなみ・たかとし)1958年(昭33)9月20日、福岡県北九州市生まれ。15歳で高校を中退して名古屋競馬の騎手候補生に。牧場勤務を経て栗東で厩務員。内藤繁春厩舎、中尾正厩舎、09年から須貝厩舎。ゴールドシップ、レッドリヴェール、ソダシでJRA・G1計10勝

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