「ありがとう。ただ、まだこの賞は始まったばかりなので、どのくらい価値があるのか、わかるのはこれからじゃないですか」。

「ロンジン・ワールド・ベスト・ジョッキー」の表彰が始まった14年、美浦トレセンでライアン・ムーア騎手に祝福を伝えると、彼はいつものようにクールにそう返事をしました。今年で10回目、先週金曜(12月1日)にIFHA(国際競馬統括機関連盟)が23年のロンジンワールドベストジョッキーを発表し、ライアン・ムーアは4度目の受賞となりました。

ランフランコ・デットーリ騎手と並ぶ最多。他に受賞経験があるのは、17年のヒュー・ボウマン、昨年(22年)のジェームズ・マクドナルド。どちらもオーストラリアを拠点にしているジョッキーです。

このランキングは、IFHAが選んだ「トップ100のG1」で騎手が残した成績をポイント化したもの。ライアン・ムーアが世界一と聞いて、文句を言う人はいないと思いますし、フランキーもそう。ヒュー・ボウマンも素晴らしいジョッキーですし、ジェームズ・マクドナルドはニュージーランドが生んだ天才ジョッキーです。

創設から10年が経過し、それなりの評価を獲得した賞と言えるでしょう。では、「このランキングでJRA所属のジョッキーがトップに立つには…」。もちろん、日本のG1で勝ちまくって、欧米&オーストラリア&香港のG1にも騎乗して、勝っていくことが求められます。ただG1を勝つ、好成績を残すのではなく、「トップ100のG1」に入っているG1を勝って、上位に入ることが大事になります。

「トップ100のG1」は年間レースレーティングで決まります。昨年(22年)でいえば、トップ100に入っているのは、オーストラリアのG1が20、英国のG1が18、米国のG1が18、日本のG1が12、フランスのG1が10、香港のG1が10、南アフリカのG1が5、アイルランドのG1が4、ドバイ(UAE)のG1が4、カナダのG1が1、ドイツのG1が1、サウジアラビアのG1が1(※100位タイが5つあるため、合計104レースが該当)。

「トップ100のG1」の内訳を見れば、欧州を拠点にしている騎手が有利なランキングになっているのは間違いないです。とはいえ、日本のG1もポイント対象になっているレースが多いですし、香港や中東(ドバイ、サウジ)、そして、米国でも日本馬が勝利をつかむことが常識的になってきた現状があります。

近い将来、JRA所属のジョッキーから「ロンジン・ワールド・ベスト・ジョッキー」が誕生する。ロンジンワールドベストジョッキーにJRAのジョッキーが輝く…、そんな日がやってくるのかもしれませんね。

今朝の美浦トレセンは肌寒かったですが、ところどころで熱い気持ちに…。レモンポップでチャンピオンズCを制した田中博師は明日、香港へ出発予定。香港ヴァーズのレーベンスティール、香港カップのローシャムパークへの期待を語ってくれました。

今夜はトレセンで働く仲間たちと早めに、小規模の忘年会。担当馬の活躍を振り返ったり、大けがなく、ここまで来ることができたことを互いに喜び合ったり…。食事を終えて、今、帰ってきたところです。明日の関東地方は雨予報が出ていますが、たくさんの馬が速い時計を出す追い切り日。元気に取材したいと思います。【木南友輔】