<天皇賞・春>◇28日=京都◇G1◇4歳上◇芝3200メートル◇出走17頭

テーオーロイヤル(牡6、岡田)が好位から力強く抜け出し、G1初制覇を果たした。鞍上のデビュー13年目、菱田裕二騎手(31=岡田)は念願のG1初勝利を自厩舎の馬で飾った。

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20年前の淀から始まった物語の序章には、ひとりぼっちで夢を追った3年近くの執念があった。

04年の天皇賞・春当日に「衝撃を受けた」という11歳の裕二少年は、騎手への憧れを両親へ言い出せなかった。賭け事が嫌いだと思い込んでいたからだ。

「本当にまったく隠してました」

京都サンガのジュニアチームでJリーガーを目指す息子…を演じ続けたという。サッカーの練習へ行くふりをして、電車とバスを乗り継いで乗馬クラブへ。会員ではないため、施設の外から何時間もただ馬を見た。内緒で隣県の栗東トレセンを訪れたことさえある。もちろん関係者以外は立ち入り禁止。入場門前を出入りする車の運転席を見つめ、騎手の姿を探した。

「僕は根拠なく『絶対に騎手になれる』って思ってました」

抱えてきた思いを打ち明けたのは、中学3年生になる直前だった。競馬学校の受験が迫ってきたからだ。

「親子の縁を切る覚悟」で父を説得した。競馬学校の合格を知ると「人生で一番泣いた」。入学後は1年の留年にも耐えた。

その耳には今も、父の壽男さんから何度も聞かされてきた言葉が残っている。「念ずれば通ずる」。折れない信念を貫いた20年。ついに夢への道が通じた。【中央競馬担当=太田尚樹】