志半ばでも、笑顔で前を向いた。現役最年長の柴田善臣騎手(60)が16日、美浦トレセンで引退会見を行った。進退発表から一夜明け、42年間の騎手人生を振り返り、決断の理由、後輩への提言、今後のビジョンなどを約30分にわたって語った。引退式は11月1日に天皇賞・秋が開催される東京競馬場で行われる。

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締まった空気を和らげた。スーツ、ネクタイを紺でそろえたメガネ姿の柴田善騎手が、右手でマイクを握る。報道陣、関係者含め50人ほどの前に立ち「本当は(会見を)開きたくなかったんですけど…。こういうのは得意じゃないんで」と会場を笑いで包んだ。

最後は体が悲鳴を上げた。4月12日、福島で騎乗した際に右肩を痛めた。

「利き腕の右肩でかなりリスクがある。だらだらするよりも早めに、と思って。もう少し続けたい気持ちはあったんですけど、体が言うことを利かなくて『ああもう無理かな』という感じで決断しました」

8月中旬、最初に家族へ伝えた。

「きついと分かっていたけど何も言わずにサポートしてくれた家族に『辞めることにするわ』と一番最初に。子どもや家族は『何もなく引退できてよかった』と言ってくれましたね」

人生の3分の2を費やした騎手生活を「すごく楽しい42年でした」と言い切った。その原動力は-。

「馬に乗りたい、競馬に乗りたいんですよ。追い切りに乗ってレースで実践する。成績が出ればすっごくうれしい。そういうことを考えるのがすごく好きなんです。勝ちたかったレース? 負けたレース全部ですよ。勝って満足いくレースってあまりなくて、負けたレースは余計悔しい。寝られない時もあったし、やけ酒したこともありますよ」

誰よりも長く“JRA騎手”という金看板を背負い続けた。「人に夢を与えられる職業」と胸を張る。だからこそ昨今、不祥事が続く若手に、言わなきゃいけないことがある。

「昔は殴られたぞって。ちょっと甘いんじゃないかって。自分が置かれている立場、騎手というものを世の中がどう見ているか、肝に銘じて行動しなきゃいけない」

肩書きはJRAアドバイザーに変わる。「金、土、日とスマホも使えるようになるんでね(笑い)。使い方を勉強しながら楽しめれば。昔の流れも少し教えながら、今の流れに合ったアドバイスを」と世代間の緩衝材を目指す。

「やりきれた感じはないです。悔いはあります。でも、もっと楽しいこと、もっといい景色が見られるんじゃないかと。その途中ですよね」

最後は色鮮やかな花束を左手に記念撮影。涙は一切ない。後輩騎手と響かせた「ハッハッハ」という笑い声と拍手に包まれ、会見場を後にした。【桑原幹久】