「ブルベ史上、最も平坦なコース」とのうたい文句に惹かれ、ランドヌ東京主催のブルベ「BRM1212東京200 弁天橋」に参加した。207キロのコースのうち半分以上が多摩川と荒川のサイクリングロードで峠はなし。ブルベ新シーズン開幕の軽い足慣らしで楽々完走できると思ったが、とんでもない地獄が待ち受けていた。


荒川サイクリングロード右岸36・8キロ地点
荒川サイクリングロード右岸36・8キロ地点

開催日は昨年12月12日(日)だったが、コロナ禍のためスタッフ不在の新運用で行われた。密を避けるためスタートは5日(日)午前6時から19日(日)午前6時の間で各自が任意で選択。ブルベカードもリモートとなっており、通過チェックは指定されたコンビニで証憑(しょうひょう)となるレシート、あるいは指定場所をフォトフレームと一緒に撮影し、それをアップロードして認定を受けることになる。


直前になって天気予報を確認するとほぼ晴れの日が続き、雨マークが付いているのは14日(火)だけだった。この方式の最大の利点は天気が選べること。ポカポカ陽気が予想される12日に走る予定にしていたが、諸般の事情でどうしても準備が間に合わず翌13日(月)にトライすることにした。天気予報によるとその日は強い冬型の気圧配置となり日本海側は「冬の嵐」のピークで、晴れる太平洋側も寒さが厳しくなるという。関東南部は北の風5メートルと予想されていたが「雨じゃないし、まあ何とかなるべ」と気楽に構えていた。


今回のコース
今回のコース

スタート地点は東京・世田谷区の駒沢オリンピック公園中央広場、東寄り陸橋の下の駒沢通り。ここから多摩川へ向かい、サイクリングロードを日野橋付近まで遡上し、折り返して河口の旧穴守稲荷神社の大鳥居まで下る。その後は東京を横断し、荒川サイクリングロードの志木付近までの片道約37キロを往復。再び東京を横断して駒沢付近まで戻ってくる。距離は207キロで制限時間は13時間半だ。


明るいうちに帰って来たかったので午前5時半ごろのスタートを予定していたが、久々のブルベに興奮して前日は眠れず、午前4時前にはスタート地点近くの駐車場に着いてしまった。車から自転車を降ろして準備し、証憑となるレシートを付近のコンビニで取得。印字された時間は午前4時12分でこれがスタート時間となる。


スタート地点の駒沢公園通過はその10分後。気温は10度前後だろうか。風はまだ吹いていない。真っ暗な中を多摩川を目指して走り出した。


午前4時22分 駒沢公園
午前4時22分 駒沢公園

世田谷の住宅街の中をくねくね走り、世田谷通りから狛江三叉路を右折して多摩川に向かう。早朝なので車は少ないが、信号は多い。暗い中、数百メートルおきに曲がるポイントをキューシートで確認するのもひと苦労でかなり時間がかかったようだ。多摩川サイクリングロードへ入るのは11・2キロ地点だが、ここに到達するのに52分もかかった。


午前5時4分 多摩川サイクリングロード左岸の狛江付近
午前5時4分 多摩川サイクリングロード左岸の狛江付近

夜明けまでまだまだ時間があり、街灯のないサイクリングロードは真っ暗。その中からジョギングや散歩をする人がポツポツと現れる。反射タスキや懐中電灯、シューズのリフレクターなどの光に細心の注意をしながら走るが、たまに何の光も放たない人もいるので時速は23キロ程度しか出せない。多少向かい風も吹いている。「かぜのみち」だが、こう暗くては風になれない。


午前5時19分 多摩川サイクリングロード左岸の調布付近
午前5時19分 多摩川サイクリングロード左岸の調布付近

午前5時52分 多摩川サイクリングロード左岸の国立付近
午前5時52分 多摩川サイクリングロード左岸の国立付近

11年ぶりの多摩川サイクリングロードは緊張の連続。左岸を走り続け、たまにスロープで河川敷と土手を行き来するが、暗いので2個所ほど間違えた。ただ、「国立折り返し」でサイクリングロードを回避するルートは覚えていた。


日野橋でいったんサイクリングロードを外れ「通過チェック1」のセブンイレブン八王子石川中入口店へ。到着は午前6時26分でこの頃から明るくなってきた。しかし、貯金はたった28分。33・9キロに2時間以上かかってしまった。メカトラがあればタイムアウトだ。のんびり補給しているヒマはない。トマトジュースを急いで流し込みリスタートする。


南を向いたことでやや追い風となり、明るくなったことも重なって時速30キロが出せるようになってきた。河口までの36キロでばん回しなければ。


折り返してモノレールの下を走った後は、少し浅川沿いを走るややこしいルートから府中四谷橋に出て左岸を走り、是政橋からは右岸を行く。人の姿は右岸の方が少ないようだったが、太陽が真正面にくることになりサングラスをしていてもまぶしかった。多摩川原橋、多摩水道橋、二子橋、丸子橋と過ぎて行くのだが、ぜひ橋そのものに橋の名前を書いて欲しいと思った。サイクリングロードは同じような風景が続くこともあり、どこにいるのか分からなくなってしまう。


この頃になると自転車通勤のサイクリストも多くなる。何カ所か工事中の所があったり、橋前後のルートなどはついていけば良かったので助かった。


午前7時6分 多摩川サイクリングロード左岸の府中四谷橋
午前7時6分 多摩川サイクリングロード左岸の府中四谷橋

午前7時11分 多摩川サイクリングロード左岸の関戸橋付近。後方は京王線。海から35キロ地点
午前7時11分 多摩川サイクリングロード左岸の関戸橋付近。後方は京王線。海から35キロ地点

午前7時22分 多摩川サイクリングロード右岸の是政橋
午前7時22分 多摩川サイクリングロード右岸の是政橋

午前7時23分 多摩川サイクリングロード右岸の是政橋付近から下流を臨む
午前7時23分 多摩川サイクリングロード右岸の是政橋付近から下流を臨む

午前8時8分 多摩川サイクリングロード右岸の丸子の渡し。海から13キロ地点
午前8時8分 多摩川サイクリングロード右岸の丸子の渡し。海から13キロ地点

70・8キロ地点のガス橋を渡り、再び左岸を走る。主に河川敷を走り多摩大橋、六郷橋を過ぎ、大師橋の手前でサイクリングロードは終了。ここが羽村取水堰付近までの「たまリバー50キロ」(実際は53キロ)の起点だ。


午前8時18分 多摩川サイクリングロード左岸のガス橋
午前8時18分 多摩川サイクリングロード左岸のガス橋

午前8時37分 たまリバー50キロの起点
午前8時37分 たまリバー50キロの起点

午前8時39分 羽田第2水門。後方は大師橋
午前8時39分 羽田第2水門。後方は大師橋

80・6キロ地点の通過チェック2「旧穴守稲荷神社の大鳥居」は大師橋をくぐり、もう少し進んで右へ曲がり弁天橋を渡った先にある。羽田空港はもう目と鼻の先だ。到着は午前8時44分で、貯金は51分。快調に走ったはずだが意外と貯金は増えていない。


午前8時44分 穴守稲荷神社
午前8時44分 穴守稲荷神社

午前8時44分 穴守稲荷神社
午前8時44分 穴守稲荷神社

午前8時44分 通過チェックの証拠写真をパチリ
午前8時44分 通過チェックの証拠写真をパチリ

午前8時51分 今回のブルベのお題「弁天橋」
午前8時51分 今回のブルベのお題「弁天橋」

向かい風と逆光の中、大鳥居とフォトチェックフレームを一緒に撮影。折り返して先を急ぐ。


この先は素直に国道に入らず、住宅街の幅2メートルぐらいの裏道や商店街の中を通ったりと、ややこしいルートを進む。ということは時間がかかるということ。5キロほど迷路のような道を走り、大森橋交差点で第1京浜(国道15号)に出たときはほっとしたが、今度は向かい風(T_T)。 相変わらず進まない。


品川手前で第1京浜から離れ、旧海岸通りから新大橋通りへ。当初の予定では98キロ地点の勝手知ったる築地の場外で海鮮丼のランチでもと思っていたが、貯金が1時間弱ではのんびり食べているヒマはない。ルートとは反対車線の本願寺、そして少しだけルートから外れる我が日刊スポーツ新聞社の前でとりあえず写真だけは撮って先へ進む。ここでのんびりしたかったが、残念。


八丁堀駅前交差点を右へ曲がり、永代橋を過ぎると先日のミステリーブルベのスタート地点だった木場公園。またここへ来るとは。


午前9時55分 築地本願寺
午前9時55分 築地本願寺

午前9時57分 日刊スポーツ東京本社前
午前9時57分 日刊スポーツ東京本社前

通過チェック3の「ファミリーマート東砂七丁目店」へは午前10時28分の到着。1キロ手前にもファミリーマートがあったがこちらは「南砂四丁目店」で、あやうく間違えるところだった。貯金は42分と減っているのでおにぎりとスポーツドリンクを補給し、慌ただしく出発。荒川サイクリングロードに入る葛西橋には約10分後にたどりついた。


午前10時39分 葛西橋
午前10時39分 葛西橋

午前10時40分 葛西橋から荒川上流を臨む。右下がサイクリングロード
午前10時40分 葛西橋から荒川上流を臨む。右下がサイクリングロード

荒川サイクリングロードは15年ぶり2度目。この時はマウンテンバイクで自宅から自走。葛西橋から入ったのは一緒だが、1キロ下流へ戻り0キロ地点まで行っている。その後は戸田橋まで走り、埼玉スタジアムを目指したようだ。


15年前にマウンテンバイクで行った荒川サイクリングロード起点
15年前にマウンテンバイクで行った荒川サイクリングロード起点

荒川サイクリングロードに出た途端、地獄が始まった。あり得ない北風が襲ってきた。吹きさらしなので逃げ場はない。これが約40キロ続くのだ。見上げると雲ひとつない青空。前方は広い2車線の道。人の姿もほとんどない。あ~あ、風がなければ絶好のサイクリング日和なのになぁ…。やっぱり昨日走れば良かったか。


キューシートには堀切橋、千住大橋、岩淵水門、戸田橋、笹目橋、朝霞水門などの名前があるが、すべて「右岸を直進」。分かりやすいが、変化がない。左手は土手、対岸には鹿浜橋付近まで高速道路。河川敷にはゴルフ場。この風景が続いていく。


途中からやや西向きになるが、強烈な向かい風は変わらなかった。時速は頑張って20キロちょい。ヘタすれば15キロを割ってしまうこともしばしば。まるでヒルクライムしているようだ。逆方向から走ってくるサイクリストの笑顔がうらやましい。Uターンしてやめようかと思ったが、雨以外でのDNF(Do Not Finish)は情けないしなぁ。とにかく時速15キロ以上をキープして貯金を減らさないことが重要だ。歯を食いしばって風と戦い続けた。


岩淵水門で隅田川を渡るのだが、そのまま直進して行き止まりのミスコース。さらに土手に出ると向かい風が一層強くなった。


135・4キロ地点の朝霞水門を過ぎ、ようやく折り返し付近に近づく。右手にサッカー場が見えるところに車止めがあり、サイクリングロードが途切れた。区間距離だともう少し先だったので国道を463号を渡って進もうとしたら一般車両は通行止めとなっていた。ここまできてミスコースかと不安に思いGPSで確認すると、国道手前の道をUターン気味に入るようだった。戻ろうとするが国道の信号が長くてあせる(^_^;


午前10時46分 広々とした荒川サイクリングロード。前方は都営新宿線の鉄橋
午前10時46分 広々とした荒川サイクリングロード。前方は都営新宿線の鉄橋

午前11時47分 荒川サイクリングロード岩淵水門付近
午前11時47分 荒川サイクリングロード岩淵水門付近

午後0時24分 荒川サイクリングロード31・6キロ地点。後方は朝霞水門
午後0時24分 荒川サイクリングロード31・6キロ地点。後方は朝霞水門

通過チェック4の「セブンイレブン志木上宗岡4丁目店」に午後0時52分にやっとのことでたどり着く。貯金は56分。なんとか維持できたが油断はできない。今回のコースは207キロだが、制限時間は199キロであろうが210キロであろうが13時間半とおまけはない。要するに余分な7キロにかかる20分ほどの余裕が必要。となると貯金は実質30分ほどしかない計算になる。グルメを楽しむ時間はない。肉まんとポークフランクでぐーぐー言う腹を黙らせ、速攻でリスタートした。


さあ、南へ向かう復路! 天国の追い風だぜー(^o^) 軽く回しても30キロ以上が普通に出る。なんと幸せなことよ! 往路は詳しかったキューシートも復路では「区間距離37キロ 荒川サイクリングロード」としか記述されてない。「来た道勝手に帰れ」ってことですな。2、3個所土手と河川敷を行き来するところがあるので、思い出しながらガンガン回す。追い風の時は風を感じないもので、往路ではピューピューとうるさかった風の音も復路では聞こえず、ほぼ静寂。その中を時速35キロ前後で走り抜ける。気持ち良すぎるのだが、あまりに単調なので飽きるのも事実だ。


多摩川ではなかった橋の名前や道の名前が荒川では道にペイントされている。あまりに大きすぎて最初は意味不明だったが、一度読めるようになるとほぼすべてが理解できる。


午後1時2分 荒川サイクリングロード志木付近の羽根倉橋手前の出口
午後1時2分 荒川サイクリングロード志木付近の羽根倉橋手前の出口

午後1時24分 荒川サイクリングロード笹目橋。橋の手前には名前が大きくペイントされている
午後1時24分 荒川サイクリングロード笹目橋。橋の手前には名前が大きくペイントされている

午後1時44分 荒川サイクリングロード岩淵水門
午後1時44分 荒川サイクリングロード岩淵水門

181・6キロ地点の葛西橋には午後2時25分に戻ってきた。往路は遅々として進まず、復路は必死で回したサイクリングロード。もっとゆっくり走って楽しみたかったが仕方ない。


通過チェック6の「ローソン南砂葛西橋通店」には午後2時35分の到着。貯金は1時間49分まで増えていた。ひと安心。残りは20キロ。これで多少トラブルがあっても明るいうちにゴールできそうだ。


午後2時25分 荒川サイクリングロード葛西橋
午後2時25分 荒川サイクリングロード葛西橋

ここからは再び東京を横断する。茅場町、日本橋と抜け、大手門にぶつかると皇居を半周。千鳥ケ淵、麹町と通過して192・6キロ地点の通過チェック7の「ファミリーマート紀尾井町三番地店」へ。到着時間は午後3時15分で貯金は1時間49分と変わらず。都内を走るのでグロス時速15キロしか出ないのは仕方ない。


その先のホテルニューオータニへ続く紀尾井坂が今回のブルベの最大のこう配で、唯一フロントをインナーにして上った。その後は迎賓館前、赤坂御所、明治神宮外苑、新国立競技場前、原宿駅前とまるで東京見物のようなコースを走る。最後は世田谷の迷路のようなコースとなり、まだ明るい午後4時18分、ゴールとなる207・1キロ地点の「ローソン駒沢オリンピック公園前店」に到着した。


完走タイムは12時間6分で貯金は1時間24分。「ブルベ史上、最も平坦なコース」が強烈な北風でハードルがどんどん上がっていった。平たんなのに足が攣(つ)るなんていままでになかったよ。ブルベ出走可能期間はほとんどがポカポカ陽気で、この日だけ風がきつかった。よりによってその日を選ぶとはね。「リバーサイドをノンストップで、のんびりライドしましょう。気がつくと200キロに」という誘い文句はこの日に限ればうそだったなぁ(^_^; あせりまくった200キロだった。ま、それはそれで楽しかったけど。【石井政己】