10月下旬。紅葉の便りのニュースがテレビから少しずつ聞こえるようになってきた。町はまだ先だが、関東での標高の高いところならもう見られるかもしれないなぁ…。そんなことを考えながら地図を開いた。紅葉が見られそうで、まだ行ったことのない、面白そうな道はないかなぁ? そんな風に思っていたところ、栃木県西部に最高の道を見つけた。


「日塩もみじライン」の途中にある白滝
「日塩もみじライン」の途中にある白滝

「日塩もみじライン」。鬼怒川温泉と塩原温泉を結ぶ全長28キロの山岳ルートで観光道路としても知られている。元々は有料道路だったが2020年12月に無料化になったという。オートバイで走った記憶がないので、行けばおそらく初ツーリングになる。観光案内のサイトで調べてみると例年の紅葉の見ごろが10月下旬となっている。これはもう、行くしかないだろう。

自宅から自走で行くと時間(日にち)がかかりすぎるので、今回はE-bikeを車に載せて鬼怒川温泉まで移動。龍王峡をE-Bike旅のスタート地とした。朝7時半。龍王峡の駐車場を出発する。鬼怒川温泉のある藤原町の天気予報は曇りのち晴れだが、北部の山沿いは雨の予報。雨にならないことを願って走り出す。

国道121号を北へ。しばらく走ると、県道19号(藤原・塩原線)と記された標識が現れる。エーデルワイススキーリゾート、ハンターMtスキー場、塩原温泉などの地名も記されている。おそらく昔は「日塩有料道路・日塩もみじライン有」と書かれていたのだろう。

もみじラインを少し走ったところに小さな駐車場があった。道から100メートル下った場所に“太閤下ろしの滝”なる滝があるらしい。この滝には太閤秀吉が難所のために馬から下りたという説や、滝の美しさに馬から下りたという説があるという。自転車を降りて階段を下りて行くと、森の中に2段に流れ落ちる小さな滝があった。今回はスタートしたばかりだったが、長い道程を越えて偶然この滝に出会ったら、きっと感動していたに違いない。


ここが国道121号と「日塩もみじライン」の分岐点
ここが国道121号と「日塩もみじライン」の分岐点

「太閤下ろしの滝」の前で記念写真。まだまだ元気だ
「太閤下ろしの滝」の前で記念写真。まだまだ元気だ

登り坂とカーブを繰り返しながら徐々に標高を上げて行く。旅の相棒はいつものヤマハYPJ-TC。今回の走行予定距離は60~70キロ、大容量バッテリーを積載している上に予備を1本携帯しているので、バッテリー切れの心配は不要。強力なアシストが得られるHIGHモードでガンガン登って行く。

順調に進んでいるはずなのに、なぜか同時に不安感がどんどん高まってくる。なぜなら、木々の葉はまだ緑色、肝心の紅葉がまだ始まっていないのだ。それでも標高が上がれば紅葉しているかも… 淡い期待を抱き、ひたすらペダルをこぐ。木々の間から見える青空、よく見ると遠くの山にきれいな虹がかかっているではないか。いきなり虹が見られるとは運がいい。


青空に美しい虹がかかっていた
青空に美しい虹がかかっていた

「クマに注意」の文字。確かに熊が出てきてもおかしくない雰囲気
「クマに注意」の文字。確かに熊が出てきてもおかしくない雰囲気

標高1150メートルの富士見台駐車場で休憩にする。スタート地の龍王峡が447メートルだったので、約700メートル上がったことになる。体力的にはまだまだ余裕がある。富士見台と名前が付いているけど、こんなところから見えるのかな? 半信半疑で展望台へ登った。遠い山を眺めると、その向こうに白い富士山が見えるではないか。ウソだろ、これはすごい。まさかこんな遠くから見えるとは思わなかった。ここから直線距離で200キロはあるはず、やはり日本一の山だ。

さらに登って行くと白滝駐車場に到着した。峠の茶屋なるものがあったが残念ながら休業中だった。隣に公衆トイレ、反対側には白滝なる滝が流れていた。滝の近くの木はわずかに紅葉している。この感じだと1週間~2週間先がピークかもしれない。

さらに10分ほど登ると鳥居が現れる。何かと思ったら鶏頂山登山の入口で、登山者名簿が置かれていた。もみじラインをさらに進むと、エーデルワイススキーリゾートの建物とゲレンデが見えてきた。いまは緑一色だが、2か月後には白銀の世界に変わっているのかな。真冬にE-Bikeで来ることはないと思うけど(笑)見てみたい気もする。

特に峠のような所はないようで、この付近から徐々に下り坂が始まる。ところどころ路面が濡れていることから少し前までこの辺りは雨が降っていたことがわかった。下り始めるとあっという間で、日塩もみじラインの終点に30分足らずで到着した。塩原温泉にあるコンビニで休憩。缶コーヒーで体を温める。


この辺りから雨の予感を感じ始める
この辺りから雨の予感を感じ始める

数は少ないが紅葉している木もいくつかあった
数は少ないが紅葉している木もいくつかあった

1200年の歴史を持つ塩原温泉は「塩原十一湯」と呼ばれる湯本からできていて、それぞれ泉質の違う温泉を楽しむことができる。おすすめは塩原温泉共同浴場。気軽に入れる日帰り温泉で、木造の浴槽や露天風呂など個性豊か湯に低料金で浸かることができる。ひと風呂浴びたいところだが、いま入浴してしまうと、そのあと自転車をこぐ気力がなくなること確実なので、今回は控えておく。

温泉街をのんびり走っていると塩原温泉観光協会、さらに眺めのよさそうなレストランを見つけた。二階へ上がると窓の広い開放的なレストランでいい感じ。ここでランチにする。一番のおすすめ、コーヒー・ミニケーキ付の「もの語り文豪御膳」を注文する。きのこ御飯、ヤシオポークのバラ肉、鮭とチーズのフライなど、どれもおいしい。運動をしておなかが空いていたこともあり、あっという間に胃袋へ消えていった。


塩原温泉にあるカフェレストラン洋燈(ランプ)でランチタイム
塩原温泉にあるカフェレストラン洋燈(ランプ)でランチタイム

「日塩もみじライン」の北側の入口は塩原温泉
「日塩もみじライン」の北側の入口は塩原温泉

止みそうで止まない雨は意外とつらい
止みそうで止まない雨は意外とつらい

カフェレストランを出ると雨が降り出していた。走り始めるとさらに激しくなってきた。塩原温泉に来てから雲行きが怪しいと思っていたけど、ここまで強くなるとは… 軒下に30分ほど避難したが、待っても止みそうにないので、意を決し雨の中へ突入。雨雲の下から一刻も早く抜け出そうと思い、必死にペダルをこいだ。

トンネルをいくつか抜けて国道121号に出ると、そのまま鬼怒川温泉方面へ向かう。車をとめている龍王峡まで、一本道。のどかな田舎の風景の中を淡々と進んで行く。雨なので景色を見る余裕も、写真を撮る気持ちにもなれない。とにかく、ひたすらペダルをこいで、こいで、こぎまくる。

国道12号に沿って延びる男鹿川。川幅が広がり五十里湖に変わった。ここまでくれば車を置いている龍王峡まで10キロあまり。川治温泉に着くと、ゴールはもう目と鼻の先だ。気が付くと雨は上がり、濡れていたパンツも乾いていた。紅葉のタイミングにはまだ早く、色づいた木はわずかしかなかった。さらに雨にも降られたが、滝を眺めたり、富士山を見つけたり、きれいな虹を見たり、充実したE-Bike旅となった。最後に一言、紅葉の旅、リベンジするぞ~


天然温泉も楽しめる「道の駅・湯西川」は絶好の休憩スポット
天然温泉も楽しめる「道の駅・湯西川」は絶好の休憩スポット
男鹿川に沿って旅は進んで行く
男鹿川に沿って旅は進んで行く

走行距離:74.9km

バッテリー消費:1本目100%+2本目15%

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