前回は紅葉を見るために、栃木県の日塩もみじラインまで行ったが、時期が早かったようで、ほとんど見ることができなかった。だから今回は紅葉リベンジ旅。場所は、数年前に紅葉と池のコントラストが美しい写真に魅せられて以来“いつか行ったみたい場所リスト”に入っていた「御射鹿池」へ行ってみることにした。

御射鹿池があるのは長野県茅野市。ここを走る国道299号は国道として日本で2番目に標高の高い「麦草峠」もあるので、この2つをめぐろうと思う。自宅の神奈川から茅野までE-bike(ヤマハYPJ-TC)で自走するのは時間がかかり過ぎるので、今回も近くまで車で行くことにする。

最初に訪れたのが県道191号沿いにある御射鹿池。日本画家・東山魁夷画伯作が描いた「緑響く」のモチーフとなった池としても知られている。県道沿いなのですぐに見つかった。池は完全に観光スポットになっていて、近くに駐車場とトイレが完備。さらに池の周りには人が立ち入れないに鉄柵が設けられていた。山の中にひっそりと存在しているイメージだったので、少し興ざめしたが、それを差し引いてもやはりその景色は美しかった。


長野県茅野市にある御射鹿池。紅葉する木々が池の水面に映る
長野県茅野市にある御射鹿池。紅葉する木々が池の水面に映る

今回は予備バッテリーを1本バッグに携帯。車重は増えるが、峠越えを考えアシスト距離を優先することにした。そのまま県道191号の終点、渋御殿湯を目指す。車はほとんど通らない山道を独占サイクリング。気分がいい。20分ほど坂道を登ると、カーブの先の斜面にポツンと岩らしき影が見えた。んんっ?と思いながら近づくと、それは岩ではなく動物のよう。よく見えないが、毛が黒っぽい、えっ?! もしかして熊。まさか。緊張が走る。ゆっくり近づくと、顔が少し白い。熊じゃない、タヌキしては大きい…

次の瞬間、正体がわかった。カモシカだ! まさか、天然記念物のカモシカ。すごい、すごい。興奮を抑えながら、逃げないでくれ… 祈りながら10m位のところまで近づいた。そこからゆっくりスマホをバッグから取り出し、カメラを向けた。カモシカは威嚇してくることもなく、また逃げることもなく、僕のことを見守っている。なんだろう、この不思議な感覚は… 穏やかな表情で見つめ合う人間とカモシカ。その間に穏やかな時が流れる。

ずっと見ていたかったが、これ以上邪魔をしてはいけないと思い、その場を離れることにした。僅か1分か2分だったが、まるで永遠のような、夢のような時間だった。県道191号の終点まで登り、引き返す。同じ場所を再び通ったが、カモシカの姿はどこにもなかった。あの姿は幻だったのかもしれない。そんな気持ちになった。


森の道で偶然出会った野生のカモシカ。この状態のまま、しばし見つめ合った
森の道で偶然出会った野生のカモシカ。この状態のまま、しばし見つめ合った

坂道を下りて国道299号に出ると、麦草峠へ向かった。ひたすら登り坂が続く。アシストはあるが、登り坂が延々に続くとキツイ。また標高1500mを越えると、さすがに寒くなってきた。路肩に白いものがチラホラ… まさか… ええっ、やっぱり。近くで見るとそれは残雪だった。数日前に雪が降ったらしい。雪を見ていたらさらに寒くなってきた。ひたすらペダルをこぎ続けると、ついに、前方に峠を記す標識は見えてきた。やった、標高2127mの麦草峠に到着だ。


道の路肩には数日前に降った雪がまだ残っていた
道の路肩には数日前に降った雪がまだ残っていた

メルヘン街道最高地点、国道299号の麦草峠、標高2127mに到着!寒かった~
メルヘン街道最高地点、国道299号の麦草峠、標高2127mに到着!寒かった~

達成感に包まれると同時に、携帯食も飲み物もなしでここまで来たことを悔やんだ。ハラペコで喉もカラカラ。ああ何か飲みたい。そこで少し手前に「麦草ヒュッテ」なる看板があったことを思い出した。来た道を引き返し、横道に入ると赤い屋根の山小屋があった。麦草ヒュッテと書かれたドアを開けると、アットホームな室内。その中心で薪ストーブが焚かれていた。そばに行くとポカポカ温かい。ホットココアで体を温めると、生き返るようだった。ヒュッテの人が先週、雪が降ったと教えてくれた。


大きな赤い屋根が目印の麦草ヒュッテ。サイクルラックも設置されている
大きな赤い屋根が目印の麦草ヒュッテ。サイクルラックも設置されている

ホットココアでひと休み。アットホームな雰囲気が漂う麦草ヒュッテ
ホットココアでひと休み。アットホームな雰囲気が漂う麦草ヒュッテ

ヒュッテから遊歩道を歩いて白駒池へ向かう。30分ほどで着いた池の周りは雪だらけ。枯れ木も多く、景色は冬模様。紅葉どころじゃなかった、確かにこの辺りは標高2000mを越えているからなぁ。空を見上げると雲は姿を消し、気持ちのいい青空がどこまでも広がっていた。


白駒池の周りは残雪が多くすでに冬景色に変わっていた
白駒池の周りは残雪が多くすでに冬景色に変わっていた

歩いて麦草ヒュッテに戻ると、再びE-Bikeに跨った。歩いている時は体を動かしているので、それなりに暖かかったが、ダウンヒルになると激寒。あっという間に指が凍りそうなほど冷たくなった。あるものを全部着込んでいるので、これ以上はどうすることもできない。ひたすら寒さに耐えた。

次に紅葉の名所と言われる横谷渓谷を訪ねた。駐車場にE-Bikeを止め、歩いて横谷観音へ向かうと、もみじが真っ赤に染まっていた。青空のブルーとのコントラストが美しい。これぞ紅葉という感じ、来て良かった。


青空と紅葉を眺めながらペダルを踏む。きれいな景色の中を走っていると疲れも忘れてしまう
青空と紅葉を眺めながらペダルを踏む。きれいな景色の中を走っていると疲れも忘れてしまう

駐車場に戻ると隣に、蓼科天空の屋台そば「観音SOBA」なるお店があった。ここで遅めの昼にする。「けん豚つけ汁そば」なるメニューがあったので注文する。ここの名物らしく、信州産の味噌と豚肉、地の野菜をたっぷりと使った けんちん汁と豚汁の混ざったような汁に、冷たいそばをつけて食べるらしい。初めてなのでどうかと思ったが、温かい汁と風味のあるそばが同時に楽しめる感覚が面白く、想像以上においしかった。今度、自宅でやってみよう。

今回の旅は紅葉リベンジ旅だったが。他にも麦草峠、ヒュッテ、残雪、御射鹿池、けん豚つけ汁そばなど…いろんなことが印象に残ったが、最も心に残っているのは野生のカモシカ。天然記念物の中でも特に価値が高く、特別天然記念物に指定されているカモシカに会えるとは夢にも思っていなかったので、本当に嬉しかった。僕の人生の中でも特に思い出に残る旅となった。【藤原かんいち】


景色を眺めながら観音SOBAの「けん豚つけ汁そば」を食べる
景色を眺めながら観音SOBAの「けん豚つけ汁そば」を食べる

横谷観音で見た燃えるような紅葉。いまの季節しか見ることができない特別な景色
横谷観音で見た燃えるような紅葉。いまの季節しか見ることができない特別な景色

■走行距離:51.1km

■バッテリー消費:90%

◆ルート