かつては全米の中でも犯罪発生率が高い都市の一つと言われたロサンゼルス(LA)も近年は再開発などで治安が改善され、犯罪発生率が劇的に減少。観光都市として「治安の良さ」をアピールしているLAですが、低所得者の割合が多い一部の地域は現在もあまり治安の良い状況とは言えません。

その中の1つ、南西部に位置するイングルウッドもアフリカ系アメリカ人とヒスパニック系住民が多数を占めるエリアで、犯罪発生率が高いことで知られています。空港の東側に位置するイングルウッドは、ホテル料金が安いために宿泊場所として選ぶ観光客がいるものの目立った観光施設がないので旅行者にはあまり縁のない場所ですが、実は地元の人でもイングルウッドにあまり近寄りたくないと思っている人も少なくありません。

しかし今、そんなイングルウッドの土地が高騰しており、住民たちを激怒させているというのです。

イングルウッドは治安は良くないものの住宅地の中に小さなホテルも点在しています
イングルウッドは治安は良くないものの住宅地の中に小さなホテルも点在しています

不動産バブルが続くLAは、とにかくどこもかしこも家賃が上がりまくっていて、もはや高級住宅地でない場所でも高収入でない限り、普通のアパートを借りるのも大変なほど。治安と家賃が比例するLAでは、もっとも一般的な1ベッドルーム(ベッドルームとリビングのみの小さめなアパートの部屋)でも安くても1500ドル以上はする有様で、そこそこ治安の良い地域に住もうとすると月2000ドル以上は必要。そのため、治安面で不安がある地域にもどんどん人が流れていっているのです。

そんな現状に目を付けた不動産投資家が今狙っているのがイングルウッドで、周辺の土地を購入したり、古いアパートなどを買収して新たなアパート建設を進めており、もともと住んでいた低所得者たちが家賃高騰のあおりを受けていると言われています。

来年完成予定の新スタジアムの完成予想イメージ(ラムズの公式HPより)
来年完成予定の新スタジアムの完成予想イメージ(ラムズの公式HPより)
街中にはラムズのイングルウッド移転を祝うメッセージ広告も
街中にはラムズのイングルウッド移転を祝うメッセージ広告も

観光スポットのないイングルウッドですが、現在新たな大型屋外スタジアムが建設中で、来年後半にも完成する新スタジアムは今後NFLロサンゼルス・ラムズとチャージャーズの本拠地となることが決まっています。22年2月にはスーパーボウルの開催も予定されており、このスタジアムの建設によって周辺のエリア一帯が再開発されるのも土地高騰に拍車がかかっている要因です。

さらに2028年のロサンゼルス・オリンピックに向けて、空港に隣接するイングルウッドは利便性の良さから今後は新たなホテルや商業施設などの建設も行われると見られています。

かつてNBAレイカーズの本拠地だったアリーナの真横に建設中の新スタジアム
かつてNBAレイカーズの本拠地だったアリーナの真横に建設中の新スタジアム
1967年から99年までレイカーズとNHLキングスの本拠地で現在はボクシングの試合やコサート会場などになっているザ・フォーラム
1967年から99年までレイカーズとNHLキングスの本拠地で現在はボクシングの試合やコサート会場などになっているザ・フォーラム

空港の北側に位置するプラヤビスタは、数年前から多くのIT関連の企業が次々と進出して今やシリコンバレーをもじって「シリコンビーチ」と呼ばれる注目のエリアになっており、昨秋にはグーグルの新オフィスもオープンしたことからさらに不動産が高騰。その流れが次にイングルウッドにも来ると多くの専門家はみています。

再開発で治安が劇的に改善されて多くの人が暮らすようになったダウンタウンのように、まったく新しい街に生まれ変わる日もそう遠くはなさそうです。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」)