健康志向が高まるアメリカで、植物性たんぱく質で作られた人工肉が一般に定着しつつあります。ビーガン(完全菜食主義者)向けのレストランやヘルシーフードのカフェのみならず、なんとジャンクフードの代名詞でもあるファストフードチェーン店までもが、人工肉の販売に乗り出しており、ハンバーガー業界に革命を起こしています。特にヘルスコンシャスな人が多いここロサンゼルス(LA)では、プラントベース(植物由来の食べ物をベースにした食事)は流行というよりもすでにライフスタイルの一部にまでなっており、健康や環境のためにと週数回はプラントベースの食事をする人も増えています。そんなLAの人たちがおいしいと言って食べている人工肉とはどのようなものなのでしょう。

マクドナルドに次ぐ大手ハンバーガーチェーンのバーガーキングが、このほどシリコンバレーのベンチャー企業「インポッシブル・フーズ」が開発した人工肉を使ったハンバーガー「インポッシブル・ワッパー」の販売を開始しました。

ファットバーガーで販売されているインポッシブル・バーガー。ジュージーな肉汁まで再現されていると評判
ファットバーガーで販売されているインポッシブル・バーガー。ジュージーな肉汁まで再現されていると評判

肉を一切使わずに大豆由来の人工肉を使ったこのハンバーガーは、普通のワッパー(バーガーキングの人気メニューの一つ)と比べると脂質は15%低く、コレステロールも90%カットされているとのこと。しかも大豆由来のヘムという肉特有の風味を出すたんぱく質成分が含まれているため、肉らしい味と食感が楽しめ、見た目や味、肉汁にいたるまで牛肉のパテを忠実に再現していると評判です。インポッシブル・バーガーは、LAではすでにファストフードチェーンのファットバーガーやグルメバーガーチェーンのウマミバーガーなどで昨年から提供されていますが、バーガーキングはこのヘルシーなワッパーをLAやサンフランシスコなどヘルシー志向の人が多く住む都会ではなく、あえて畜産業が盛んな中西部の街セントルイスで試験販売を始めたのです。保守的な考え方の人が多いセントルイスで売れれば、全米展開しても成功するだろうとの考えに基づいてのものと思われますが、実際に食べた人たちからは「牛肉を使っていないとは思えない」と好評で、年内にも全米の7200店舗全てで販売されることが決まりました。

スーパーマーケットで売られているビヨンド・ミート。パテをフライパンで焼くだけで牛肉と同じような味が楽しめます。パテ以外にソーセージも売られています
スーパーマーケットで売られているビヨンド・ミート。パテをフライパンで焼くだけで牛肉と同じような味が楽しめます。パテ以外にソーセージも売られています

インポッシブル・バーガーと並んで人気なのは、LA生まれの「ビヨンド・ミート」。こちらも牛肉のパテにそっくりな代替肉で、LA発のファストフードチェーン、カールスジュニアでビヨンド・バーガーとして提供されている他、今年4月からはメキシカンファーストフードチェーン大手デル・タコでもビヨンド・ミートを使った2種類のタコスの販売がスタートしました。ビヨンド・ミートはエンドウ豆のたんぱく質が主成分で、牛肉の赤色をつけるために真っ赤な根菜ビーツの抽出液が使われています。また、脂身を再現するためにココナツオイルを使っているとのことで、こちらも食感や風味は肉そのもの。ビヨンド・ミートはスーパーマーケットでも販売されており、自宅で簡単に調理して食べることもできます。

カールスジュニアのビヨンド・バーガー$5.99と普通のバーガーより少しお高めですが人気があります
カールスジュニアのビヨンド・バーガー$5.99と普通のバーガーより少しお高めですが人気があります

どちらも見た目は牛肉そのものですが、100%植物由来のため、ダイエット中の人やビーガンも安心して食べられる他、動物愛護や温室効果ガス削減など環境保護のために肉を食べないという人たちにも人気があります。特に近年は環境保護や健康のために週に1回は肉を食べない「ミートフリー・マンデー」が浸透しており、普段はハンバーガーを食べている人たちもその日くらいは代替肉を食べてみようとなるようです。これらの代替肉のベンチャーにはレオナルド・ディカプリオやマイクロソフト創設者ビル・ゲイツも出資しており、今後ますます「フェイク肉」の需要は高まってくると期待されています。植物性肉と聞くとパサパサしてあまり美味しくなさそうなイメージを持つ人も多いかもしれませんが、ビヨンド・ミートとインポッシブル・バーガーはブラインドテイスティングをしてもほとんど牛肉と区別がつかないとも言われています。肉好きな人でも満足できる人工肉バーガーは、一度試してみる価値があるかもしれません。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)