世界中で感染が拡大している新型コロナウイルスは、ここアメリカでも猛威を振るい始めています。アメリカでは今冬インフルエンザが猛威を振るい、患者数は2600万人を超え、すでに1万4000人以上の死者を出す事態になっていますが、ここにきて日本でも報道されている通り、実は患者の多くが新型コロナウイルスに感染していた可能性が取りざたされています。医療費が高い上に日本のような国民皆保険制度がないアメリカでは、高額な保険料を支払うことができず保険に加入していない人も多いことから、多少の発熱や咳で病院に行く習慣がないという事情もありますが、日本のように感染予防のためにマスクを着用する文化がないのも一因です。

ロサンゼルス国際空港でもマスク姿なのはほぼアジア人だけで、欧米人のマスク姿はほとんど見かけません
ロサンゼルス国際空港でもマスク姿なのはほぼアジア人だけで、欧米人のマスク姿はほとんど見かけません

日本では感染予防のために外出時は咳エチケットとしてマスク着用を心がける人が多いですが、アメリカでマスク姿の人を見かけるのは大規模な山火事などの災害現場や病院の手術室にいる医師や看護師くらいなもので非日常的な光景であることは間違いありません。つい先日、病院を訪れた時も待合室にいる患者はもちろん、受付の女性、そして医師ですらマスクはつけていませんでした。また、ロサンゼルス(LA)の空港でもマスク姿なのはほぼアジア人だけで、それ以外の人種でマスクを使用している人は数えるほどしか見かけませんでした。到着ロビーに姿を見せるパイロットやクルーもアジア系は全員がマスク姿ですが、面白いことに欧米系の人は全員がノーマスク。それは空港の職員も同様で、歴とした差に文化の違いをまじまじと感じました。そもそも欧米では予防のためにマスクを着用する概念はなく、マスクをしている人=病人という考え方なので、この時期にマスクをして歩いていると逆に自らが感染者だと周りに思われてしまう危険性すらあるのです。実は筆者も昨日、マスク姿の日本人とドラッグストアに行った時、「コロナウイルスか? 近寄るな」と店員から冗談交じりに話しかけられました。「中国人か?」と聞かれたので「日本人だ」と答えると笑いながら、「日本では皆マスクをしているんだってね」と言われたので、マスクが欲しいんだけどと聞くと、「売り切れだ」と言われました。もともと日本に比べて販売されているマスクの量や種類が圧倒的に少ないという事情もありますが、マスクをしている人がほとんどいないアメリカでもなぜかマスクが手に入らないという噂を聞いたので確認してみた所、数軒回ったドラックストアではどこも完売でした。主にアジア系の人が買っていくそうで、こんなところにも中国や日本のマスク不足の影響が及んでいるようです。

1つ買うと2個目が半額になるセールを行っていたらしいマスクは、棚から消えています。LA市内のドラッグストアではマスクの品薄状態が続いています
1つ買うと2個目が半額になるセールを行っていたらしいマスクは、棚から消えています。LA市内のドラッグストアではマスクの品薄状態が続いています

中国で発症し、日本や韓国などアジア諸国での感染が拡大する中でアメリカでもアジア人差別が少なからず起きているという話は耳にしますが、幸いにも人種のるつぼでアジア人を含む様々な人種の人たちが暮らしているここLAでは、現時点で筆者の周辺ではあからさまな差別を感じることはありません。しかし、地方都市では配車アプリのウーバーを利用した際に乗車時にドライバーから「中国人か?」と聞かれたという話や、レストランで明らかに他の客から離れた端の席に案内されて隔離されているように感じたという日本人の話は聞くようになりました。筆者の周辺でも、日本人であることを知っているアメリカ人からは「日本では安全なのか?」「オリンピックはできるのか?」と言った質問をされることはしばしばで、さらに日本人であることを知らない人からは「中国人か?」「家族は大丈夫?」などと聞かれるなど、この問題への関心の高さが伺えます。一方で、いざ街中を歩いてもマスク姿の人は皆無で、観光地ハリウッドでは普段と変わらずに映画のキャラクターに扮した人たちがアジア人の筆者を見て「シェイシェイ(謝謝=ありがとう)。一緒に写真撮ろう」と片言の中国語交じりで話しかけてきたりと、危機感はまったく感じられません。

空港は普段とまったく変わらない雰囲気で、新型コロナウイルスへの危機感は感じられません
空港は普段とまったく変わらない雰囲気で、新型コロナウイルスへの危機感は感じられません

米国務省が22日に日本と韓国への渡航警戒レベルを1段階引き上げてレベル2にしたことを発表し、在米日本人の間で大きな動揺が起きています。韓国はその2日後に渡航中止を勧告するレベル3に引き上げられ、中国と同等の扱いとなったことでさらに不安は広がっています。3月の春休みに合わせて日本に一時帰国を計画していた人の中には、このまま日本での感染が拡大した場合はアメリカとの空路がストップする可能性も考えられることから日本への渡航を見合わせるケースも出ています。LAにある日系の旅行会社や航空会社に問い合わせをしたところ、今後日本もレベル3に引き上げられる可能性は否定できないという答えが返ってきましたが、仮にレベル3に引き上げられた場合は日本に一時帰国した日本人はアメリカに入国できない可能性すらあるのです。カナダの学校では日本に一時帰国した日本人学生や新たな留学生の受け入れ拒否をする動きも出ているようで、このまま日本での感染拡大が続くと日米間のビジネスや人の移動にも大きな制約が出てくる可能性もあり、LAの日本人の間では日々緊迫感が増しています。

中国からの入国者がいないため、人が少なく感じるロサンゼルス空港ですが、今は日本からは普段通りに多くの人が入国しています
中国からの入国者がいないため、人が少なく感じるロサンゼルス空港ですが、今は日本からは普段通りに多くの人が入国しています

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)