先月25日にミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドさんが無抵抗のまま白人警察官に首をヒザで地面に押し付けられて死亡した事件を受け、全米各地で抗議デモが起き、ここロサンゼルス(LA)でも日に日に参加者が増え、過激さも増しています。

防護板にBlack Lives Matterとメッセージを掲げる衣料品店。正義がない限り、平和もないと書かれています
防護板にBlack Lives Matterとメッセージを掲げる衣料品店。正義がない限り、平和もないと書かれています

抗議デモの参加者たちは、「フロイドさんに正義を」や「息ができない」とフロイドさんの最期の訴えを書いたプラカードを手に街を行進していますが、同時に多くの人が「BLM(Black Lives Matter)」と書かれたメッセージを手にしています。日本ではあまり聞きなれない言葉だと思いますが、直訳すると「黒人の命は大切」という意味で、2013年にフロリダ州で黒人の高校生トレイボン・マーティンさんが白人警察官に射殺された事件を発端にSNSで広がった抗議運動のスローガンです。その後も14年7月にニューヨークでエリック・ガーナーさんが警察官によって窒息死させられ、その数週間後にはミズーリ州ファーガソンで18歳の青年マイケル・ブラウンさんが白人警察官に射殺される事件が起きるなど繰り返される無抵抗な黒人への白人警察官による暴力や人種差別をなくそうと訴える運動としてBLMは広く知られるようになりました。

営業を続ける店の前に掲げられたBLMサポートの看板
営業を続ける店の前に掲げられたBLMサポートの看板

フロイドさんの死を巡っても、ジャスティン・ビーバーやビヨンセ、アリアナ・グランデら多くのセレブが抗議運動を支持している他、ウォルト・ディズニーやネットフリックスなどエンターテイメント業界からもBLMをサポートする声があがっています。SNSでは、#BlackLivesMatterのハッシュタグが拡散されていますが、同時に「なぜ黒人の命だけが大切なのか?」と意義を唱えて全ての人の命が大切と訴える#AllLivesMatterを主張する白人も多くいます。しかし、この主張には賛否両論あり、ピンクやビリー・アイリッシュらセレブは「白人は迫害されていないし、命の危険にはさらされていない」と反論の声を上げています。

被害にあった店舗の掃除を手伝う市民
被害にあった店舗の掃除を手伝う市民
BLMサポートの文字が一面に書かれた防護板で店をプロテクトする雑貨店
BLMサポートの文字が一面に書かれた防護板で店をプロテクトする雑貨店

LA各地でここ数日起きている暴動に備えて多くの店舗やレストランがショーウインドーや扉を防護板で覆う対策を取っていますが、板にも「我々はBLMをサポートしています」と書かれているのを数多く見かけます。新型コロナウイルスの影響で2カ月以上営業を停止され、ようやく再開を果たした直後に再びこの暴動で店を閉めざるをえない人たちを見ているとやるせない気持ちがこみあげてきますが、そんな中でもBLMをサポートする人が多いことはアメリカの今をとてもよく表しています。背景にあるのは根深い人種差別の歴史ですが、今回の暴動ではデモ隊を前に「一緒に抗議をしよう」と呼び掛け、片膝をついて抗議者との団結を示す白人警察官の姿もあります。大多数の人が「暴力ではなく平和的な解決を」と訴えて抗議活動を行う中で、一部の集団がこれに便乗して略奪や放火など暴力行為を行っている悲しい現実もあります。

襲撃された家具店では商品は盗まれずに残されたまま
襲撃された家具店では商品は盗まれずに残されたまま

それでも、「自分の地元が破壊されるのは悲しい」「なんの罪もない人たちが略奪や破壊で傷つくのは悲しい」と、暴動の翌朝には被害を受けた店の掃除を手伝うボランティアが街に溢れているのもまた今のアメリカです。「フロイドさんの死に対する正義が行われるまで(逮捕された警察官に正当な判決が下されるまで)は続くだろう」という人もいますが、コロナ禍の中、様々な思いを胸に抗議活動は続いています。

2カ月ぶりに営業を再開した店も、再びの暴動に防護板で覆って閉店
2カ月ぶりに営業を再開した店も、再びの暴動に防護板で覆って閉店

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)