新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大し始めて10カ月。国家非常事態宣言が出され、ここロサンゼルス(LA)でも外出禁止令が発令された昨年3月中旬以降、メディアでは「ステイホームによって来冬にはベビーブームが起こる」と予想されていましたが、10カ月がたとうとする今、どうなっているのでしょう。

自宅で夫婦やカップルが一緒に過ごす時間が増えることで子作りの機会も増すのではないかと話す専門家も多く、コロナ禍でロックダウンが始まった当初は「夫婦にはソーシャルディスタンスが必要ないから9か月後(米国では一般的に妊娠期間は9か月と計算されています)には子供がたくさん生まれるだろう」といった意見がSNSで溢れ、「Quarantine(クアランティン=隔離)Baby Boom(ベビーブーム)」という言葉も飛び交っていました。しかし、実際にはそんな予想に反して出生率は大幅に減少していることが明らかになりました。

コロナ禍で日本のみならず米国でも出生率が低下
コロナ禍で日本のみならず米国でも出生率が低下

日本では昨年5~7月の妊娠届の件数が前年同時期と比べて11.4%減少したと厚生労働省が発表していますが、アメリカでも2021年の出生数は前年と比較して30~50万人減少し、前年の8~13%減になる可能性があるとシンクタンクのブルッキングス研究所が発表しました。米国では2000年後半から2010年初頭までの大規模な経済的衰退グレート・リセッション以降、減り続けている出生率がコロナ禍で回復すると期待されていましたが、約半数のカップルが子供を作ることを延期したと米USAトゥデイ紙が伝え、パンデミックを理由に子供を持つことに不安を感じた人も26%に及ぶと報じています。

グーグルでも、2020年は「ソーシャル」「セックス」「妊娠」「つわり」などに関するキーワードの検索が大幅に減少しており、想像以上にコロナが夫婦やカップルの関係に影響を与えたことが分かります。同紙によると子作りを延期した人の多くが、失業や事業の経営難など経済的不安やコロナ禍での子育ての難しさ、妊娠中に安全に医療機関を利用できるのかといった不安などを理由にあげているそうです。感染拡大の影響で雇用情勢が悪化して失業者が急増したことやコロナ禍で挙式ができないカップルが多かったこと、3月から4月にかけてニューヨークではコロナ感染者で病院が埋まり、多くの市民がニューヨークを脱出して郊外に避難していたことなどからも、安全に子供を作る環境ではないと考えた人も多かったと見られています。また、2人目や3人目の子供を持つことをあきらめるなど人生設計の変更を余儀なくされた人もたくさんいたと言われています。

コロナは夫婦関係にも大きな影響を与えています
コロナは夫婦関係にも大きな影響を与えています

一方で、USAトゥデイ紙によるとコロナ禍で約4分の1のカップルが子作りの計画を早めたとも伝えており、少なからずリモートワークで自宅で過ごす時間が増えたことで子供を持つことを考えた夫婦もいたようです。しかし、誰もが経験したことのない非常事態で人生が混乱を極めて転落した人も多く、「ロックダウンして家に閉じ込められたらロマンチックなことが起こると考えるのは神話にすぎない」という手厳しい声も出ています。パンデミックから9か月が経った現在、LAでは8分に1人が新型コロナウイルスによって亡くなっており、医療が逼迫して助かる見込みが低い患者の病院搬送を中止するよう要請が出されるなど医療崩壊も起きている中、子供を持つことへの不安やリスクを考える人がさらに増えることは想像に容易く、現状では来年以降も当面は出生率が回復する見込みは少ないとの声も出ています。

医療現場のひっ迫で妊娠計画を遅らせる女性も増えています
医療現場のひっ迫で妊娠計画を遅らせる女性も増えています

1981年以降に生まれたミレニアル世代やそれに続くジェネレーションZと呼ばれる若い世代は、世界金融危機の影響によって結婚や出産を先延ばしにしてきただけに、長引くコロナ不安の中で出生率を回復させるのは容易ではないと指摘する専門家もいます。パンデミックは米国の経済にも大きな影響を与えていますが、このまま出生率が減少を続ければ乳幼児向けの紙おむつや粉ミルクなどを製造する企業の業績悪化も避けられないとの報道もあり、少子化加速は今後様々な方面に影響を与えることになりそうです。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」)