新型コロナウイルス感染拡大の影響で1年延期された東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの開催に向けて聖火リレーがスタートしたものの、依然としてコロナが収束していない中での開催には海外メディアからも批判的な声が上がっています。アメリカで独占放映権を持つNBCテレビは、「コロナの恐怖の中で東京五輪の聖火リレーが始まった。聖火は鎮火されるべき」との見出しで、ニュースサイトに意見記事を掲載。ブルームバーグも3月31日付の記事で、「五輪開催は日本国内で感染を広めるだけでなく、世界的な感染拡大を招く可能性がある」と指摘しており、他にもUSAトゥデー紙など主要各紙がワクチン接種が進まない日本で今夏に開催することへの疑問を呈し、中止や延期を求める動きが起きています。

五輪開催に疑問を呈するニューヨーク・タイムズ紙の記事
五輪開催に疑問を呈するニューヨーク・タイムズ紙の記事

NBC

聖火は消されるべきと厳しい論調で批判記事を書いたのは、元プロサッカー選手でパシフィック大学政治学教授のジュールズ・ボイコフ氏。記事では「復興五輪」とうたわれているものの実際には被災地の多くの人々が復興の遅れは五輪のせいだと非難していることも紹介しています。「復興していない場所が復興しているという考えで聖火リレーのテーマになっていること以上に皮肉なことはない」と、福島でスタートした聖火リレーも批判しています。さらに、五輪のリーダーたちが「世界への希望の光」「トンネルの終わりの光」などと語ってきたことなどにも触れ、ワクチン接種が進んでいない日本で海外からの観光客の受け入れは断念したものの入国するアスリートや関係者らに対してもワクチン接種を求めないことは、パンデミックを悪化させる可能性があると指摘。日本国民のおよそ80%が、開催の中止または延期を望んでいると伝えています。

聖火リレー開催を批判するNBCのニュースサイトに掲載された記事
聖火リレー開催を批判するNBCのニュースサイトに掲載された記事

ブルームバーグ

コロナ禍での1年の開催延期や組織委員会会長の交代劇など相次ぐスキャンダルや悪評を乗り越えて開会式を迎えようとしている東京五輪について、「依然コロナの世界的大流行が続く中でいかに大会を安全に開催するかという真の難題が残っている」と開催に懸念を示す記事を掲載。海外からの観客の受け入れは断念したものの、感染状況やワクチン接種、変異株など状況が全く異なる世界200カ国余りから選手やコーチらスタッフ、メディア関係者などおよそ6万人が日本にやってくる状況は、世界規模で感染爆発を招きかねないと指摘。日本国内の感染拡大にとどまらず、帰国者を通じて世界各国で感染を広げるスーパースプレッダー・イベントになる可能性に言及しています。

ニューヨーク・タイムズ

3月24日付で「五輪開催へ。でもなぜ?」という見出しで、コロナ禍でなぜ五輪を行う必要があるのか疑問を投じる意見記事を掲載。日本はアメリカやヨーロッパ諸国に比べると感染者数も死者数も少ないものの、感染率は急上昇しており、ワクチン接種はまったく進んでいないと指摘。菅総理が「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しに」と語ったことに応える形で、「近いうちに人類はもちろん、日本がコロナを打ち負かす兆候は見られない」と痛烈に批判。同紙は今年1月にも東京五輪は中止に追い込まれる可能性があると報じています。

今すぐシャットダウンせよと五輪中止を求めるワシントン・ポスト紙の記事
今すぐシャットダウンせよと五輪中止を求めるワシントン・ポスト紙の記事

ワシントン・ポスト

3月20日付で、「五輪をシャットダウンせよ、今すぐ」との見出しで五輪中止を求める意見記事を掲載。東京五輪の開催は、「世界中の人々を危険にさらす」と強く非難しており、医療体制の崩壊を招く危険があることから今すぐ中止を決断する必要があると論説。五輪開催は完全にばかげており、無責任だと指摘し、シャットダウンしないことは怠慢で致命的だと批判。同紙は昨年12月にも、日本はなぜ五輪開催を主張するのかと題した批判記事を掲載しています。

シドニー・モーニング・ヘラルド

2月1日付で「東京五輪の計画は大惨事を誘発する」と題した記事を掲載し、スーパースプレッダー・イベントとなる可能性を指摘し、もし成功できなければ日本も五輪も2度と回復できないと開催を中止しないことを厳しく非難。低レベルであっても感染拡大によって混乱が生じると警告しています。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」)