バイデン米大統領が就任から29日で100日を迎えるのを前に、28日に初めて議会で演説し、人口のおよそ30%が新型コロナワクチンの接種を完了したことについて「史上最大の成果」とアピール。「まだ接種していない人は、接種に行って自分の役割を果たして欲しい」と語り、国民に躊躇(ちゅうちょ)せずに今すぐ接種するよう呼びかけました。新型コロナ対策としてワクチン接種の加速を公約に掲げるバイデン大統領は、「7月4日の独立記念日には再び家族や友人らと集まれるようになる」と夏までに正常化への道筋を示すことを目標としており、集団免疫獲得に向けて残り2カ月強でさらなる接種率アップを目指しています。

ワクチンの普及でコロナ禍前の日常を取り戻そうと呼びかけるアメリカ
ワクチンの普及でコロナ禍前の日常を取り戻そうと呼びかけるアメリカ

ワクチン接種が加速する一方、65歳以上の高齢者のおよそ7割が接種を終えたこともあり、今月中旬以降は摂取ペースが鈍化。これまで大行列だったドライブスルー形式の大型接種場を訪れる車は減少し、予約が取りにくい状態から一転してワクチンの余剰がでている地域もあると伝えられています。ここロサンゼルスでは現在、16歳以上の全住民が接種の対象となっており、希望すれば誰でも無料で接種ができます。場所や時間帯によってはまだ予約が取りにくい状況ではあるものの、以前のようにまったく予約が取れないというようなことはなく、接種場所も増え、予約なしの接種も可能になるなどハードルはかなり下がっています。それでも接種に消極的な人は少なくないようで、民間の世論調査では37%の人が接種に否定的または様子見をしているという結果も出ています。また、1回目の接種を終えても2度目の接種を受けない人が増えていることも問題視されており、目標を達成するには今後はこうした人々や活発に動く若者への働きかけが課題となっています。

クリスピークリームではワクチン接種でドーナツが無料に(写真はクリスピークリームのHPより)
クリスピークリームではワクチン接種でドーナツが無料に(写真はクリスピークリームのHPより)

そんな中、ワクチン接種をマーケティングに活用する企業も増えています。例えば、ドーナツチェーン大手のクリスピークリームはワクチン接種を完了した人が接種証明書を店舗で提示すれば1日1個グレーズド・ドーナツが無料でもらえ、ニューヨークのレストランでも接種者にはチーズケーキを無料で提供しています。ほかにも事務用品大手ステープルズでは割引クーポンが、リワードアプリでは50ドル分のポイントがもらえるなど消費者の興味をそそるさまざまなキャンペーンが全米各地で行われています。さらに、ビール業界でもバドワイザーなどが飲酒が法的に認められる21歳以上を対象としたキャンペーンを展開。SNSにハッシュタグをつけてワクチン接種したことが分かる写真を投稿すればサミュエル・アダムズのビールがもらえたりもします。そして驚くことに嗜好用大麻が合法の州の中にはワクチン接種の証明書を提示すれば大麻を無料でもらえるキャンペーンまで登場しており、これまでワクチンに興味のなかった人たちにとっては接種のきっかけになりそうです。

なんと、ワシントンDCではワクチン接種すると大麻がもらえる?! (マリファナ活動グループDCMJのSNSより)
なんと、ワシントンDCではワクチン接種すると大麻がもらえる?! (マリファナ活動グループDCMJのSNSより)

一方、企業が従業員に接種を促すために奨励金や有給休暇を出す動きも活発になっています。コロナ禍で「必要不可欠な仕事」の筆頭とされるスーパーマーケットでは従業員を感染から守るため、大手クローガーはワクチン接種者に100ドルの奨励金を出しているほか、トレーダージョーズは接種1回ごとに2時間分の時給を賞与として上乗せしています。また、ハンバーガーチェーン大手マクドナルドでは、従業員がワクチンを接種すると4時間の有給休暇が与えられるほか、スターバックスやカジュアルダイニングレストランチェーンのオリーブ・ガーデンなども1回の接種で2時間の有給を与えることが発表されています。一方で、個人の自由や権利が守られるべきという考え方が根強いアメリカでは接種に否定的な人たちにとってワクチンの義務化には反発があるため、アマゾンやアメリカン航空、ゼネラルモーターズなどの大手企業は奨励金や有給休暇を与えることには消極的で、現時点では従業員に対しては「接種を推奨する」にとどまっています。

ワクチン接種がなかなか進まない日本では考えられないようなワクチン接種推進キャンペーンで、アメリカは脱コロナを目指しています。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」)