新型コロナウイルスの感染拡大の影響で長期間にわたって厳しい感染対策を実施してきたカリフォルニア州ですが、15日から経済活動を全面再開させます。思い起こせば感染拡大が始まった昨年3月中旬に自宅待機命令が出されて以降、程度の差はありましたが1年3カ月間にわたって店内飲食の禁止や店舗の入店人数制限、対面授業の禁止、テーマパーク・映画館など娯楽施設の閉鎖、ソーシャルディスタンスの確保にマスク着用義務化など感染予防のためのさまざまな規制が行われてきました。昨夏には第1波をある程度抑えることができたとして段階的に経済活動の一部再開も行われましたが、秋には再び感染が拡大して11月末には2度目のロックダウンも経験しています。9月以降は州全体としてではなく、地域ごとに感染状況を「広く蔓延」「かなり蔓延」「中程度の蔓延」「低度の蔓延」の4段階に分類し、各郡の公衆衛生局の管轄下で感染予防対策が行われてきましたが、感染状況の変化によって規制の強化と緩和が繰り返されてきた1年3カ月でした。

年明けには1日の新規感染者数が連日1万5000人を超え、検査の陽性率も20%と全米最悪の感染状況だったここロサンゼルス(LA)郡は、長期間にわたって「広く蔓延」から脱することはできず厳しい規制が続いていましたが、クリスマスから新年にかけての感染爆発のピークを越えた後は感染者数が減少。ワクチン接種の普及効果もあり、現在はほぼ100人台の感染者数で推移しています。いぜん飲食店や映画館は100%の客数での営業は認められていませんが、ほぼコロナ禍前の日常生活を取り戻しつつあります。そして15日からはワクチン未接種者は引き続き屋内でのマスク着用が求められるものの、ソーシャルディスタンスは廃止され、すべての事業においてコロナ前と変わらない営業を行うことが可能となります。

こんなソーシャルディスタンスを保つための隔離対策も15日からは不要に
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ショッピングモールの一方通行の表示も、もうすぐ撤廃されます
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そこで今後の課題となるのが、ワクチン接種率のアップによる集団免疫の獲得です。全米の中でも比較的ワクチン接種率が高いカリフォルニアは、9日現在で人口の55・7%が接種を済ませていますが、すでに接種のスピードは鈍化しており、開始当初は行列ができていた大型の接種場も次々と閉鎖されています。集団免疫を獲得するには、人口の7割強の接種が必要だと言われており、バイデン大統領は独立記念日の7月4日までに全成人の70%(現在は約64%)が少なくとも1回目の接種を終了することを目標に掲げています。しかし、達成は難しいとの見方が強まっており、現在は各地で接種率を拡大させるためのキャンペーンに力を注いでいます。カリフォルニア州でも100%経済活動を再開させる15日までに接種した人を対象に、全米最大規模のワクチン宝くじを行うことが発表されています。12歳以上の州内在住者で少なくとも1回の接種を受けた人が対象で、抽選で10人に150万ドル(約1億6000万円)が当たります。またそれとは別に、4日と11日には各15人に5万ドル(約550万円)が当たる抽選会も行われ、すでに1回目の当選者が発表されています。高額現金を目当てに接種率が上がることが期待されているものの予想されたほど効果が出ていないとも伝えられていますが、サンフランシスコは早くも集団免疫を獲得できる可能性が出ています。

LAは現在、16歳以上の接種率は54%ですが、サンフランシスコは9日に住民の69%が接種済みとなり、7割超えが目前に迫っていることから全米で最初に集団免疫を獲得する都市になる可能性が高まっています。サンフランシスコでは12歳以上で少なくとも1回接種を受けた人はすでに79%に達しているだけに集団免疫を獲得するのは時間の問題とみられ、いち早くコロナ苦から抜け出せると期待が寄せられています。

コロナ対策として始まった駐車場や道路の一部を飲食スペースとして営業を認めるアルフレスコ・ダイニング(屋外飲食)は今後も当面の間継続されることが決まりました
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スポーツ観戦も入場人数制限が解除されるため、今夏は満席の球場で大谷選手を応援できそうです
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一方で、イギリス変異株より感染力が50%強いとされるインド変異株「デルタ」の感染拡大を懸念する声も出ています。米疾病予防管理センター(CDC)によると、すでに全米の陽性者の6%強がデルタに感染していることが分かっており、18%以上の感染が確認されている地域もあるといいます。現在承認されている3種類のワクチンはいずれもこの変異株に効果があると言われていますが、未接種者や現時点で接種が認められていない12歳未満の子供の間で感染が拡大することが危惧されています。ソーシャルディスタンスやマスク着用の義務化がなくなり、この夏は長期にわたる自粛生活の反動から人の往来が活発になる「リベンジ消費」が起こると予想されているだけに、秋以降デルタが蔓延する危険性を心配する専門家も少なくありません。特にこれから本格的な夏を迎え、冷房の効いた換気の悪い室内で過ごすことが増えることも懸念材料の一つとなっており、コロナとうまく付き合いながらいかに安全に過ごすのか、まだまだ大きな課題を抱えています。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)