新型コロナウイルスの感染者が急増し、救急搬送できずに自宅療養中に急変して亡くなられる方も出るなど医療崩壊が伝えられる日本。ここロサンゼルス(LA)でも昨秋から冬にかけての感染爆発では「救急搬送はできない」と警告が出されるほどひどい状況を経験しましたが、飲食店の閉鎖(テイクアウトとデリバリーのみ)や夜間外出禁止令、ソーシャルディスタンスやマスク着用の義務化など徹底した感染対策を行うことで抑え込み、その後はワクチン接種の普及によって6月15日には経済活動の完全再開を果たしました。しかし、当時のイギリス由来の変異種アルファ株からより感染力が強く、さらに感染スピードも速いとされるインド由来のデルタ株に置き換わったことで、コロナ感染症を巡る概念は完全に覆り、新たなステージに突入しています。

デルタ株による感染再拡大を受けてLAでは屋内でのマスク着用が再び義務化
デルタ株による感染再拡大を受けてLAでは屋内でのマスク着用が再び義務化

25日に菅首相はワクチン接種率が向上していることなどから「明かりははっきりと見え始めている」と語ったことが報じられていますが、本当に明かりは見えているのでしょうか? 接種可能な12歳以上の住民の64%がワクチン接種を終えているLA郡でも、今月17日には1日の新規感染者が今年1月以来となる4000人を超えるなど感染の再拡大は顕著で、ワクチン未接種者のみならず接種済みの人が感染するケースも増えています。日本の先を行くワクチン先進国のアメリカですら、ここ2週間で死者数が倍増しており、明かりがはっきりと見えているとは言い難いのが現状です。さらに、今後はすでに感染がアメリカ国内でも報告されているラムダ株にも注意が必要だと言われ、多くの国民がワクチンを打ち終わればコロナは収束してすぐに元の生活に戻れるというのは残念ながら希望的観測であると言わざるを得ません。そんなアメリカから、変異種に対するワクチンの有効性やブレークスルー感染、ラムダ株についてなど今分かっているコロナのあれこれをまとめてみました。

カリフォルニア州サンディエゴが発表したコロナの入院患者の内訳では、ワクチン未接種者(赤)が圧倒的多数を占めていることが明らかに
カリフォルニア州サンディエゴが発表したコロナの入院患者の内訳では、ワクチン未接種者(赤)が圧倒的多数を占めていることが明らかに

●ワクチンを打ったら感染はしない?

デルタ株に対して重症化や入院を防ぐ上では非常に高い効果があることが分かっていますが、ワクチンの接種を完了(2回目の接種の14日後)した人も感染するリスクはゼロではありません。未接種者は接種者の5倍感染しやすいとの研究結果が出ていますが、従来の変異種に比べてデルタ株はワクチンを接種した人にも感染力が強く、軽症もしくは無症状でブレークスルー感染する可能性があります。一方で、入院するリスクは未接種者は29倍高くなることが報告されており、ワクチンでは完全に感染を防ぐことはできないものの重症化するリスクを抑えることは期待できます。

●ワクチンを接種したら他人にうつさない?

ワクチン接種者がデルタ株に感染した場合、周囲にうつす可能性はあります。米疾病対策センター(CDC)の内部文書によると、ワクチンを接種していてもデルタ株に感染した場合は他人にうつす可能性は未接種者と変わらないとしています。つまり、ワクチン接種者が知らぬ間に周囲に感染を広げている可能性があり、接種を終えてもマスク着用など感染予防策を継続することが重要とされています。

●ワクチンの保護効果は半年?

ファイザー製のワクチンは、2回接種による保護効果は半年以内に弱まるという分析結果が発表されています。イギリスの最新調査によると、接種1カ月後に88%だった予防効果は5~6カ月後には74%に低下したことが分かっています。一方で、モデルナ製はファイザー製よりも感染予防効果が持続するという研究結果が報告されています。また、ミネソタ州のクリニックの調査ではファイザー製のワクチン接種をした人は2月から7月の間に予防効果が42%まで減少したとしており、先月頃からブレークスルー感染率が上がっていることの裏付けとなっています。

●3回目のワクチン接種は必要?

デルタ株の蔓延(まんえん)を受けてアメリカは、9月20日の週からファイザーとモデルナ製のワクチンのブースター接種(追加接種)を開始することを発表しています。対象となるのは、ワクチン接種を完了してから8カ月が経過した人で、初期に接種を終えた医療従事者や介護施設の入所者、高齢者らが当面は優先されることになります。ワクチン接種後は時間の経過と共に予防効果が低下することが理由で、接種から8カ月後にブースターを打つ必要性が出ています。

●空気感染するの?

感染が拡大した当初は飛まつ感染だと言われてきましたが、1年余りにわたる様々な研究の結果、今では世界保健機構(WHO)やCDCも空気感染の可能性を認めています。感染経路不明の市中感染が広がっていることからもそれは明らかで、日本の濃厚接触者を追いかける対策だけでは感染拡大が防げないのは明白です。エアロゾル(空気中に漂うウイルスを含んだ微粒子)は3時間ほど感染力を維持しながら空中を浮遊して長距離を移動するため、屋内ですれ違った、人混みに出かけた、乗り物で遠く離れた席に座っていたといったシチュエーションでも感染する可能性があります。

●ラムダ株の脅威は?

ペルーで昨年8月に見つかったラムダ株についてWHOは、「感染力が強く、抗体に対する抵抗力がある可能性がある」としているものの現時点では「懸念するウイルス」ではなく、警戒度が低い「注意すべき変異ウイルス」に定めています。というのも、今の時点ではラムダ株が従来の変異種よりどの程度感染力が強いのかや致死率など危険性を認知できていないためです。現時点でラムダ株に対するワクチンの有効性も疫学的なデータが不足しているため分かっていませんが、初期段階の研究では従来のウイルスよりも感染力が強いと言われています。

経済活動と感染予防の両立を目指すLAは、街中ではマスク着用の人が目立つものの行動の制限はなく、街はにぎわっています
経済活動と感染予防の両立を目指すLAは、街中ではマスク着用の人が目立つものの行動の制限はなく、街はにぎわっています

●子供も重症化する?

これまでは子供が感染しても重症化することは珍しいとされてきましたが、デルタ株の蔓延でこの常識も覆っています。初期の頃は無症状の子供から同居する大人や重症化しやすい祖父母ら家族に感染を広げていることが指摘されていましたが、大人のワクチン接種が進み、デルタ株の出現によって現在は子供の重症患者が増えています。LAを含む多くの都市ですでに子供病院の集中治療室(ICU)は満床に近い状態になっており、子供の患者で病院があふれている地域も出ています。CDCによると先週だけでコロナ禍以降もっとも多い2100人の子供が入院したとしており、子供は感染しても風邪程度というのは過去の話になっています。

●12歳以下の子供のワクチン承認はいつ?

ワクチンの接種が進むアメリカでは、すでに12歳以上なら誰でも望む人はすぐに接種ができる状況にありますが、現時点では12歳以下の子供への接種は認められていません。16歳以上を対象に正式承認されたファイザー製のワクチンも現時点では、12~15歳は緊急使用許可のままです。ファイザー製ワクチンは現在、5~11歳を対象とした臨床試験が進められており、この秋にもその結果が判明するものと見られ、早ければ10月頃にも接種がスタートする可能性があります。その後は、2~5歳、そして最後は生後半年以上を対象に拡大する予定で、来年以降ようやく子供へのワクチン接種が本格化することが見込まれています。

●ワクチン未接種者のパンデミック?

入院患者のおよそ9割がワクチン未接種者であるとのデータも出ており、ワクチンを接種していない人の間で感染が広がっていることが明白になっています。民主党支持者が多いここカリフォルニア州など西海岸やニューヨークなど東海岸の一部地域を除き、ワクチン接種率が著しく低い州が未だ多くあり、現在は接種率が低い州を中心に感染爆発が起きています。教員や医療従事者へのワクチン接種義務化が加速する中、反ワクチン派によるデモも行われており、バイデン大統領は現状を「ワクチン未接種者によるパンデミック」と表現しています。むろん未接種全員が反ワクチン派というわけではなく、医学的理由や宗教上の理由から接種できない人がいるほか、人口の約15%にあたる4800万人は使用が認められていない12歳未満の子供です。集団免疫に到達するには人口の7~8割の接種が目標とされることから、現実的にはかなり厳しいのが現状です。

●収束はいつ?

感染症対策のトップである米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は、この冬を乗り切って大半の国民がワクチン接種を終えれば来春には収束に向かうことは可能だとの見方を示しています。以前は来秋以降としていたのが早まった形ではありますが、あくまで期待感であり、収束を保証しているわけではないともしており、新たな変異種の出現が起これば事態が長引く可能性も示唆しています。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」)