新型コロナウイルスの感染拡大の影響で人々の生活が大きく変化してから1年半が経つアメリカでは、コロナ対策を巡って国民の分断が深刻化しています。民主党と共和党の政治的対立がそのままコロナ対策にも反映され、マスク着用やワクチン接種の義務化を巡って社会の亀裂が一層深まっています。そんな中、14日に行われたカリフォルニア州知事の解職(リコール)選挙は、全米で大きな注目を集めました。アメリカ最大のブルー・ステート(民主党支持者が多い州)で現職のギャビン・ニューサム知事がリコールされれば、共和党知事が誕生し、コロナ対策においても大きく方針変換されることは避けられないと見られていました。さらに有力対抗馬と目された保守派ラジオ番組の司会者ラリー・エルダー氏は、バイデン大統領が「トランプ前大統領のクローン」と評した人物だっただけに、ニューサム知事が負けるようなことがあればカリフォルニア州の情勢は大きく変わり、バイデン政権にも影響を及ぼしかねない事態になっていました。そのため、民主党はオバマ元大統領や若者に人気のサンダース議員が出演するテレビコマーシャルを放送し、前日にはバイデン大統領も応援演説に駆けつけ、「世界的に波及するものだ」と述べてリコールに反対するよう呼びかけるなどトランプ主義の復活に警戒を強めていました。

多額の税金が投じられたリコール選挙を伝えるLAタイムズ紙の記事
多額の税金が投じられたリコール選挙を伝えるLAタイムズ紙の記事

ニューサム知事はかつてサンフランシスコ市長を務めたリベラル派として知られ、他州に先駆けて昨年3月19日に全米での州では初めて自宅待機命令「ステイホーム」を発令。飲食店や商業施設、娯楽施設など生活に必要不可欠なエッセンシャルビジネス以外の一時休業と在宅勤務を命じ、今年6月15日に経済活動を全面解除するまで段階的な経済活動再開に向けた行動指針で感染拡大を防いできました。コロナ禍ではリーダーシップを発揮して力強いメッセージを発信し、共和党優性の他州に比べて厳格な感染対策を打ち出し、感染拡大を比較的抑え込んだとして評価を得てきました。しかし、長引く自粛で厳しい感染対策に多くの州民が不満を募らせる中、共和党支持者を中心に「ステイホーム」や「マスク着用義務化」に抗議するデモも起き、経済活動を再開させるよう求める声が日に日に大きくなっていきました。

さらに厳しい感染対策が敷かれていた昨秋、ニューサム知事が高級フランス料理店で10人以上が出席した食事会に参加する様子が報じられたことを発端に人々の不満が爆発。過ちを認めて謝罪したものの、これをきっかけにリコール運動が一気に拡大しました。最終的に2018年の知事選で集めた投票数の12%に当たる150万筆近い署名を集め、リコール投票の実施に必要な署名が集まったとして、14日にリコールを巡る投開票が行われる運びとなったのです。共和党からは他にもリアリティー番組「カーダシアン家のお騒がセレブライフ」にも出演する元陸上選手でオリンピック(五輪)金メダリストのケイトリン・ジェンナー氏やイケメンのニューサム知事に対抗いて自らを「野獣」に見立てて「美女と野獣」をテーマにヒグマを引き連れて選挙運動を行って注目を集めたジョン・コックス氏ら個性派の候補者が出馬したものの、結果は反対多数でリコールは不成立となりました。

リコール不成立を伝えるLAタイムズ紙の記事
リコール不成立を伝えるLAタイムズ紙の記事

エルダー氏は開票前から今回の選挙に不正があったと主張するなどトランプ氏を彷彿させる出来事も起きていますが、一時は賛否がきっこうしていると伝えられていた中でニューサム知事が生き残ったことでカリフォルニ州の今後を左右する重大な選挙はひとまず一件落着となりました。

とはいえ、カリフォルニア州はまだまだ問題が山積です。同州で働く教師や学校職員、医療従事者にワクチン接種証明書の提示を義務づけたことに反対する声も多く、ワクチン義務化をどこまで進めるのかという問題も出ています。また、他にも全米で最高水準の税率やホームレス問題、不法移民問題、干ばつによる深刻な水不足などコロナ以外でも様々な問題を抱えています。また、気候変動による山火事の被害も甚大です。4年の任期の3年を終えたニューサム知事に対して46人が出馬したリコール選挙はあっけなく幕を閉じましたが、今回のリコール選挙にはなんと2億7600万ドル、日本円換算すると300億円近くの税金が使われたと報じられています。しかも、任期は来年いっぱいあることから、今リコール選挙を行う必要があったのかどうかきちんと検証する必要もありそうです。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」)