ロサンゼルス(LA)で不動の人気を誇るハンバーガーチェーンIn-N-Out(イン・アンド・アウト)が、新型コロナウイルスのワクチン接種義務化を巡って揺れています。1948年にLAのダウンタウンから東に30分ほどのボールドウィンパークにカリフォルニア州初のドライブスルースタンドとして創業したイン・アンド・アウトは、LAで知らない人がいないほどの人気店で、どの店舗も行列が絶えず常に混雑しています。コロナ禍ではドライブスルーが2時間待ちになったこともニュースになったほどです。

いつも混雑しているLAのイン・アンド・アウト店
いつも混雑しているLAのイン・アンド・アウト店

そんなイン・アンド・アウトは現在、カリフォルニア州だけでなく、ネバダ州やアリゾナ州など近隣の南西部の州を含め300店を超えるチェーン展開をしていますが、このほどサンフランシスコ市のワクチン接種義務化に反対し、同市にあった唯一の店舗が一時閉鎖されたことが物議を醸しています。

サンフランシスコ市では全米の中でもいち早く8月12日にレストランやバーなどの飲食店や映画館などの屋内施設を利用する人や従業員に対し、新型コロナワクチンの接種証明書の提示を義務化することを発表。同20日からこの命令は有効となり、イン・アンド・アウトでも店内で飲食する客はワクチン接種を完了していることを証明することが義務付けられていました。しかし、同店は公衆衛生局の命令に従わず、利用客に対して入店時に接種証明書と身分証明書の確認をしていなかったことが判明し、閉鎖命令が下されました。報道によると、入店するにはワクチン接種が必要であるとのサインを店頭に提示してはいたものの、入店に際して個別にチェックは行っていなかったといいます。また、近郊の別の店舗でも同様に接種証明書の提示を求めていなかったことが判明し、750ドルの罰金が科せられたと地元メディアは伝えています。

LAの人々にとってはソールフードとも呼べるハンバーガー
LAの人々にとってはソールフードとも呼べるハンバーガー

これに対して同店の責任者は、「私たちはいかなる政府の予防接種警官になることも拒否します」とコメントし、顧客1人1人に対して接種の有無を確認することに反対の立場を表明。これは民間企業に対して政府が顧客の差別を強制する行為であると述べ、「明らかに行き過ぎで、押しつけがましく、不適切で、攻撃的だ」と反論しています。そして今回の営業停止命令はサンフランシスコ店だけの問題ではなく、今後はLAに波及することは避けられず、大きな混乱を招きかねない深刻な問題として受け止められています。

というのもここLAでも、来月4日からサンフランシスコと同様に飲食店や娯楽施設、スポーツジムや美容室などの入店に際してワクチン接種証明書の提示を義務化することが発表されているからです。当然、イン・アンド・アウトでも店内で注文して食べる客に対してワクチン接種証明書と写真付きの身分証明書の確認を行うことが義務付けられます。

全米展開はしておらず、カリフォルニア州近郊でしか食べられないことも人気の秘訣
全米展開はしておらず、カリフォルニア州近郊でしか食べられないことも人気の秘訣

現在LA郡には約20店舗あり、各店舗が今後どのような対応を行うのかは明らかになっていませんが、場合によっては接種義務のないドライブスルーのみの営業になる可能性などもあり、今後の対応に注目が集まっています。また、LAでは飲食店のみならず不特定多数が利用するショッピングモールでも証明書の提示を義務化することからサンフランシスコやニューヨークより厳しい措置になると言われています。しかし、個人商店ならいざ知らず、果たしてこれからクリスマスにかけて混雑が予想されるショッピングモールの入口で1人1人接種証明書(または接種できない人は検査での陰性証明書)を確認することが現実的なのかどうかといった議論も今後起きてくることでしょう。

ワクチン接種義務化が進むも接種率は伸び悩んでいます
ワクチン接種義務化が進むも接種率は伸び悩んでいます

LAでは市の職員全員に対してもワクチン接種を義務付けていますが、条例の接種期限だった20日を過ぎても警察官や消防官のおよそ4分の1が未接種であると伝えられています。今後、拒否する職員の処遇をどうするのかは分かっていませんが、一部民間企業では未接種を理由に解雇される従業員も出ており、多くの職員を1度に失うことになれば市政に混乱が生じる恐れもあります。重症化や死亡率を抑える効果があり、大多数が接種することでコロナを終息させることができると期待されてはいるものの、接種は個人の自由で強要されるものではないという考えも根強く、義務化を前に社会の分断をもたらす新たな壁が立ちはだかっています。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)