アメリカで最も売れているライトビール「バドライト」が、トランスジェンダーのインフルエンサーをキャンペーンに起用したことで保守派の猛反発を買って不買運動が勃発し、売り上げが急減していることが話題になっています。FOXニュースによると、バドライトは5月20日を最終とする1週間の売り上げが前年同時期と比べて29.5%減少し、ラスベガスを除いて全米全ての主要地域において6週連続で2桁の売り上げ減を記録しているといいます。バドライトが売り上げを減少させる一方で、ライバルのミラーライトとクアーズライトは売り上げを伸ばしており、今後もこの状況が続けば首位から転落し、小売店の商品棚が奪われる可能性もあると伝えられています。

スーパーボールの時期にはスーパーでバドライトを宣伝する特別コーナーも登場
スーパーボールの時期にはスーパーでバドライトを宣伝する特別コーナーも登場

バドライトがパートナーシップを結んだのは、2022年3月にSNSでトランスジェンダーをカミングアウトし、男性から女性に変わる性転換プロセスをTikTokで公開して多くのフォロワーを獲得した女優で活動家でもあるディラン・マルバニー。今年4月1日に180万人のフォロワーを持つ自身のインスタグラムに、全米が熱狂する全米大学体育協会(NCAA)が主催する男子バスケットボールの大会「マーチ・マッドネス」のスポンサーであるバドライトを宣伝する動画を投稿。テーブルの上にバドライトの缶を5つ並べ、そのうちの一つを飲みながら宣伝すると同時に女性としての動画投稿1周年を祝い、「最高の贈り物」として自身の顔が描かれた特別仕様のバドライトの缶を披露しました。

バドライトのPRをするディラン・マルベイニー (ディラン・マルベイニーのインスタグラムより)
バドライトのPRをするディラン・マルベイニー (ディラン・マルベイニーのインスタグラムより)

人気インフルエンサーとのコラボで多様性を持つZ世代へのアピールを試みた企画でしたが、この動画が発端でネットでは#BoycottBudLightのハッシュタグと共にバドライトの中身を流して捨てる動画などが拡散。歌手キッド・ロックは並べたバイライトに向かって自動小銃を乱射する動画を投稿し、カントリーミュージックのスター、トラヴィス・トリットも自身のツアーにおける同社とのパートナーシップ契約を解除するとツイートして波紋を広げています。

バドライトは主な購買層である保守派の白人男性の反発を招いたことで、マルバニーの顔が描かれた缶の発売はしないと表明し、親会社のアンハイザー・ブッシュは「私たちはビールを通じて人々を一つにする仕事をしている」と述べ、分断を生み出したことに遺憾を示しています。また、今回のキャンペーンに関与した幹部2名が休職となり、マーケティング業務の再編を行うことも伝えられています。

バドライトはこれまでも、毎年6月に実施されるLGBTQ+の権利を啓発するための活動が行われる「プライド月間」に合わせてレインボーカラーのボトルを販売するなど80年代からLGBTコミュニにティーへの支援を続けてきたことで知られるだけに、これほどまでの反感を買うことは想定外だったと思われます。しかし、配送担当者が街中で差別的な行為を受けるケースまで出ており、ネットでは在庫を抱えた小売店がバドライトのセールを行う様子や大量の商品が山積みされた店舗の写真なども拡散されています。これからビールが最もおいしく感じられる夏本番を迎えるだけに失った顧客をどう取り戻すのか正念場に立たされています。

スーパーマーケットのビールコーナーに並ぶバドライト
スーパーマーケットのビールコーナーに並ぶバドライト

分断が進むアメリカではこのところ、トランスジェンダーの人々を標的とした抗議が広がっており、マルバニーをモデルに起用したナイキに対しても同様の批判が起きています。来年の大統領選には共和党から「ゲイと言ってはいけない法」に署名して物議を醸したフロリダ州のデサンティス知事が出馬を表明しているだけに、今後さらにリベラルな価値観を敵視する動きが活発になるかもしれません。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」)