チップ文化になじみのない日本人には、レストランでの食事やタクシーなどでチップを支払うことに煩わしさを感じたり、戸惑ったりすることもあると思いますが、昨今はそんなチップ文化を巡ってアメリカ人の間でも混乱が起きています。

非接触のキャッシュレス決済では、会計時にタブレットにこのような画面が表示され、チップの額を選択する必要があります
非接触のキャッシュレス決済では、会計時にタブレットにこのような画面が表示され、チップの額を選択する必要があります

その原因とされるのは、コロナ対策の一環で非接触のために導入されたキャッシュレス決済です。これまではおつりなど小銭程度の心付けだったセルフサービスの店でも、デジタル決済の導入によってタブレットレジにチップの金額が表示されるようになりました。例えば、スターバックスのようなレジで注文して商品をカウンターで自ら受け取るカウンターサービスの店舗でも、決済時にチップの金額を選択する画面が出てきます。全ての決算が対象なのでバリスタが作るドリンクだけでなく、スナックやボトル入りの水を買っただけでもチップを要求されることになり、「誰へのチップ?」「水を売るだけで店員はチップもらえるの?」「これは店の収入になるのでは?」とツッコミを入れたくなる人が続出しています。

飲食店でのレシートにも、最初からチップを計算した金額が表示されるようになってきています
飲食店でのレシートにも、最初からチップを計算した金額が表示されるようになってきています

筆者もカフェでコーヒー豆を買った際に会計時に「15% 20% 25%」とチップのパーセンテージを選択する画面が表示され、コーヒーをいれてもらったわけでもないのにチップ? と驚いたことがあります。もちろんチップは義務ではないため「No Tip」というチップを払わない選択もできますが、店員の目の前で選択しなければならないため、恥をかきたくないからと拒否できない人は意外に多いそうです。また、支払いを拒否して店員にため息をつかれるなど嫌みな態度をされた経験を持つ人もいるようで、ストレスやプレッシャーを感じる「チップ疲れ」が起きています。

チップは「制御不能?」と報じる経済誌フォーブスの記事(写真はフォーブスの電子版より)
チップは「制御不能?」と報じる経済誌フォーブスの記事(写真はフォーブスの電子版より)

チップの金額を自分で設定できるカスタムチップもありますが、操作が面倒なので結局は表示された中から選ぶ人がほとんどで、それを見越して最低が18%、最高が30%の表示を出す端末もあり、さすがに求めすぎだとの声もあります。こうしたチップの高騰や支払う場面が増えた現状に、「チップフレーション(チップ+インフレーション)」という言葉も生まれています。CNBCの報道によると、デジタル決済の導入によって2022年第3四半期には前年の同時期と比べてフルサービスの飲食店で25.3%、セルフサービスの飲食店で16.7%チップ収入が増えたと言います。こうした流れにアメリカ人のおよそ3人に1人が、「手に負えなくなっている」と感じており、チップ疲れを通り越してイライラする人が増えていると伝えています。

最近はセルフサービスの店だけでなく、ファストフードのドライブスルーでチップを要求されたと訴える動画がTikTokで拡散されて話題にもなっており、昨今のチップ問題を「制御不能」と伝えるメディアもあります。

気軽に食べられるはずのフードコートでもチップを求められるようになってきています
気軽に食べられるはずのフードコートでもチップを求められるようになってきています

ドライブスルーやコーヒー1杯のたびに20%を支払うのはさすがにやりすぎだという声だけでなく、セルフサービスの店では商品を受け取る前に代金を支払うためサービスを受けていないのにチップを要求するのはおかしいというもっともな意見もあります。また、フルサービスの飲食店で働くウエーターやウエートレス、バーテンダーはチップ収入を見込んで時給は最低賃金以下となっていることから彼らへのチップは半ば義務であることには同意するものの、最低賃金をもらっているバリスタなど他の業種の人たちもチップを求める傾向にどこまで払うべきか消費者も頭を抱えています。このままではいずれスーパーやコンビニでもチップが必要になるのでは? との声まであり、物価高に加えてチップ高も社会問題の一つになっています。

ちなみに、1950年代は10%だったチップが、70~80年代には15%となり、昨年の平均は21%だったそうで、今では最低20%が一般的になっています。この夏休みにアメリカ旅行される方は、このチップ問題を頭の片隅にとどめておくと良いかもしれません。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)