路線途中の終点駅が廃駅になる!? 廃線ならともかく、どうして途中の終点駅が廃駅になるのか? 北海道・石北本線の「金華(かねはな)」駅。正直、耳にした時は全く意味が分からなかった。4年前の9月初旬、その意味を知りたいがため、秋の訪れを感じる北海道までわざわざ足を運んだ。同時期に鉄道ファンには有名だった「白滝シリーズ」の廃駅発表もあったため、こちらへも。2回に分けてお伝えします。



行き止まりの終着駅が好きだが、路線途中にある終点の駅にも多いに関心がある。首都圏ならば、東北本線の小金井、近畿圏なら山陽本線の網干など枚挙にいとまがない。宇都宮行きや姫路行きなら想像がつくが、少し手前の小金井、少し向こうの網干となると、現地にお住まいの方には誠に申し訳ないが、ちょっとイメージがわかない。

となると、一体どういうところなのかを見に行きたくなる。そしてたどり着くと、そのほとんどは車庫のある駅だ。もうひとつはそこから先が急激にお客さんが減るパターンで、ローカル線は、後者の例が多いが、いずれにせよ終点駅が廃駅になるというのは、ちょっと意味が分からない。

金華を含む北海道の複数の廃駅予定が分かったのは2015年7月のこと。翌年3月に廃駅になるという。時刻表を見て金華駅のことは知っていた。だが石北本線は特急しか乗ったことがないため、停車しない金華駅のことは分からない。ならば今のうちに行くしかないだろうと、9月初旬、現地に足を運んだ。


〈1〉中湧別駅跡には当時の列車が展示されている
〈1〉中湧別駅跡には当時の列車が展示されている
〈2〉中湧別の駅名標もそのまま保存されていね
〈2〉中湧別の駅名標もそのまま保存されていね

前日はレンタカーを借りて廃線となった名寄本線の中湧別(なかゆうべつ)駅跡(写真〈1〉〈2〉)や湧網線の計呂地(けろち)駅跡(写真〈3〉)の交通公園などを訪れ、北見の宿を早朝に出発。せっかくだから乗ってみたいので、まずは金華行きの列車に乗り、あわただしく折り返すその車両で戻って、止めてあった車で再び金華駅を目指した。


〈3〉計呂地駅跡にも駅舎と車両が保存されている
〈3〉計呂地駅跡にも駅舎と車両が保存されている

場所の確認以外、あえて金華駅の情報は集めなかった。いろいろ知らない方が楽しい時もある。立派な木造駅舎だった(写真〈4〉〈5〉)。北海道の木造駅舎は厳しい自然に耐えるため、丈夫なものが多い。付近を散策すると複数の住宅が見られたが、使用されていない家が目につく。


〈4〉金華駅は立派な木造駅舎だった
〈4〉金華駅は立派な木造駅舎だった
〈5〉金華駅の先の常紋トンネル工事では多くの殉職者が出たため、駅の近くに追悼碑がある。金華駅でも案内していた
〈5〉金華駅の先の常紋トンネル工事では多くの殉職者が出たため、駅の近くに追悼碑がある。金華駅でも案内していた

大正時代に開業した古い駅だ。100年以上も前に設置されたのだから、需要はあったのだ。周辺には、それなりの規模の集落があり、小学校もあった。だが時代の流れとともに人口が減り、モータリゼーションの波が訪れると利用者がいなくなった。

実は車を運転しているうちに、ここが折り返し駅となった理由が分かっていた。ひとつ北見寄りの西留辺蘂駅を過ぎると急に山登りとなる。国道を少し登ったところに駅への入り口があり、カーナビがないと見落とすところだった。ここは峠の入り口なのだ。


〈6〉すれ違いも折り返しもできる設備を持つ金華駅の構内は広かった
〈6〉すれ違いも折り返しもできる設備を持つ金華駅の構内は広かった

峠の前後というのは県や市町村の境になっていることが多い。概念として「別の国」になるのだろう。西留辺蘂は2000年開業の新しい駅で事実上、北見市の西端駅となった。本来はここでの折り返しをしたかったのだが、設備がないため、金華で折り返すことになった(写真〈6〉)。実は今は西留辺蘂止まりとなった列車は、信号所(※)となった旧金華駅までやって来て折り返している。行われていることは同じなのだ。だったら、そのまま駅も存続させて…とは利用者がほとんどない現状ではそうはいかない。駅舎内の熊への注意を促す張り紙にそれを感じる(写真〈7〉)。


〈7〉熊への注意を喚起する張り紙が駅舎内にあった
〈7〉熊への注意を喚起する張り紙が駅舎内にあった

しかし私の訪問日は熊への心配など不要だった。駅には多くの乗客がいたからだ(写真〈8〉)。「青春18きっぷ」の期間内ということもあり、廃駅の報を受けた多くの鉄道ファンがいた。いつもこれだけの人がいたら、廃駅にはならなかっただろう。


〈8〉駅には多くの鉄道ファンがいたが、ほぼ全員が旭川に向かう快速「きたみ」に乗り、その後は静けさに包まれた
〈8〉駅には多くの鉄道ファンがいたが、ほぼ全員が旭川に向かう快速「きたみ」に乗り、その後は静けさに包まれた

立ち去るべく車のエンジンをかけると、100歳を超える「駅人生」を終えようとしている金華駅に背後から「こんな時だけ来やがって」と言われたような気がした。廃線、廃駅の時はいつもそうだ。黙って離れることしかできないのが辛い。【高木茂久】

※単線では列車のすれ違いが必要となる。普通は駅ですれ違うが、駅間が長い時などは途中にすれ違い施設である信号所を設ける。