「海に一番近い」青海川駅の後に訪問したのは、全く対照的な筒石駅(えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン)。地上からの深さ40メートルのトンネル内にあるため、地上まで約300段もの階段が待ち受ける地下駅だ。かつてはJR西日本の北陸本線の駅で、第3セクター移管後に訪れたのは初めて。懐かしい景色と変化があった景色があった。
青海川から信越本線で30分ちょっとで直江津へ。日本海ひすいライン乗り換えて約20分で筒石に到着した。前回訪問時は5年前の14年9月。北陸新幹線の金沢延伸で半年後の第3セクターが移管が既に決まっており「JRのうちに」と訪れた。設備は当然そのまま使用されているが、車両は変わっている(写真〈1〉)。
元は北陸本線で複線電化されているが、日本海ひすいラインでは主に気動車が使用されている。区間内に直流と交流が混在しており、交直流車はコストが高いため、移管時に新たに投入された。
部活があったのだろうか、日曜午後の車内は高校生もかなり乗っていて私は座れなかった。私を含め、いかにも旅だという格好の人も多い。名物駅であるので、過去2回の訪問では、いずれも駅見学と思われる数人が下りた。で、今回。なんと下りたのは私1人だった。
このような駅の「貸し切り」が私にとって至福の瞬間であることは過去の記事でも書いている。前回の青海川もそうだった。ただ、ここ筒石となると事情は大いに異なる。ホームから出るには頑丈な扉を開け、シェルターのような待合所(写真〈2〉)を少し行くと見えるのは果てしない階段(写真〈3〉)。日本一のモグラ駅として知られる上越線の土合駅(群馬県)の462段には及ばないが(※)、280段もの階段を見上げる形となる(逆側のホームは290段)。もちろんエレベーターやエスカレーターはない。訪問は9月中旬でまだ気温も高い内外の温度差からか、もやがかかっているようになっている。
正直に書くと、とても不安な状況だ(笑い)。ゾロゾロ人がいたら、それはそれでおもしろくないかもしれないが、この階段を「単独登頂」するのは平素の生活ではまずあり得ない。途中、動画撮影と思われる方1人に出会ったが、その方は止まったまま。私は1歩ずつ登るしかない。しかも前回の記事にある青海川での日本酒が効いてきてちょっとキツい。5分以上かけてようやく改札に到着した。
こちらも景色が変わっていた(写真〈4〉~〈6〉)。元は日本海沿いを走っていた北陸本線が安定運行のためにトンネルが造られ、駅も海沿いから引っ越したことで筒石は現在の形となった。そしてJR時代は普通しか停車しない駅だったにもかかわらず、トンネル内をものすごいスピードで特急が通過することもあり、列車の到着ごとにホームで安全確認をするための駅員さんが常に数人いる異色の駅だった。トンネルの中の駅というより、むしろそちらが有名だったといってもいい。
現在は特急がなくなり、通過は貨物列車のみになったこともあるのだろう。今年3月から無人駅となっている(写真〈7〉~〈9〉)。駅員さんに「階段を何往復するのですか?」と尋ね、答えは忘れたが、その回数に驚いたことを思い出した。なるほど。過去の訪問は必ず駅員さんがいて貸し切りになることはなかったのだ。
駅名標を撮ろうとしたら、一部が柵にかかっていた。これ以上長い編成の列車は来ないということだろう(写真〈10〉〈11〉)。特色がなくなるのは寂しいことではあるが、長大な階段は残る。
かなりの維持費が必要な駅でもある。車でやって来て見学もいいが、せめて入場券(料)は置いてあげてほしい(写真〈12〉)。
1時間半後の糸魚川行きで駅とお別れ(写真〈13〉〈14〉)。こちらは貸し切りでなく、地元のご婦人と一緒に待合所で座って列車を待った。【高木茂久】
※北陸新幹線の金沢延伸の際、並行在来線がJRから経営分離され、信越本線・妙高高原~直江津、北陸本線・市振~直江津間の新潟県内の路線が第3セクターのえちごトキめき鉄道に転換された。妙高高原~直江津の妙高はねうまライン、市振~直江津の日本海ひすいラインと2路線を持つ。