徳島県の南東部から高知県の最東部に伸びる路線が阿佐海岸鉄道だ。伸びるといってもわずか3駅、距離にして8・5キロしかないミニ路線。ただミニといってもオール高架で踏切のない立派な路線である。その成り立ちを考えても興味が尽きないのだが、レールと道路の両方を走るDMV(デュアル・モード・ビークル、写真〈1〉)が来年度に導入予定で鉄道の将来を変えるかもしれない変革が待っている。変革真っ最中の現地を訪ねた。

〈1〉来年度から投入予定のDMV(阿佐海岸鉄道提供)
〈1〉来年度から投入予定のDMV(阿佐海岸鉄道提供)

四国の地図を見ると徳島から海沿いに高知へと線路が伸び、高知の中央部からは室戸岬を目指すかのように線路が敷かれていることが分かる。まるで出会いを求めているようにも見える両者。まさにその通りでもともとはひとつのレールでつながる予定だった。子細に語ると長くなるが、国鉄時代に計画されたこの構想は、最終的には徳島からは阿佐海岸鉄道の甲浦駅、高知からは土佐くろしお鉄道の奈半利駅までで工事が終わり、未成線部分はバスで結ばれている。甲浦駅が町の中心部からやや外れた内陸部にあるのは、将来の延伸に備えたためだ。


JR四国との共同使用駅である海部(写真〈2〉)、唯一の有人駅で車庫もある宍喰(写真〈3〉)そして高知県最東部の駅である甲浦のたった3駅。以前はJRからの乗り入れがあり、牟岐までやってきた特急が、普通になって甲浦まで運行されていたこともあったが、現在は阿佐海岸鉄道内のみの運行で海部でJR牟岐線と連絡するようになっている。全線乗車しても10分程度の旅だ。だが味わい深い旅でもある。

〈2〉JR四国との共同使用駅である海部駅
〈2〉JR四国との共同使用駅である海部駅
〈3〉唯一の有人駅で本社もある宍喰駅
〈3〉唯一の有人駅で本社もある宍喰駅

海部の手前には有名な「町内トンネル」(※1、写真〈4〉)があり、駅から望むことができる。有人駅は途中の宍喰のみ(写真〈5〉〈6〉)。こちらには車庫と本社があり、有名な伊勢エビの駅長さんがいる(現在は3代目)。そして終点の甲浦(写真〈7〉)。おしゃれな駅舎と時計が目を引く駅だが、その駅舎は現在工事中で立ち入ることができない。DMV(※2)のための工事だ。

〈4〉海部駅付近にある町内トンネル
〈4〉海部駅付近にある町内トンネル
〈5〉唯一の有人駅である宍喰駅。伊勢エビの駅長も健在
〈5〉唯一の有人駅である宍喰駅。伊勢エビの駅長も健在
〈6〉宍喰駅で購入した硬券セット
〈6〉宍喰駅で購入した硬券セット
〈7〉DMV導入に向けて工事中の甲浦駅
〈7〉DMV導入に向けて工事中の甲浦駅

レールと道路を兼用の画期的な車両。かなり以前から開発が続けられていたが、来年度中にはいよいよ実用の見込み。現在、未成線となつている甲浦と奈半利の間はバス連絡されているが、鉄路を走ってきたDMVがそのまま道路を走ることも可能となる。

ただDMVはバスと同じく前と後ろが決まっているので方向転換が必要となる。甲浦駅は地上に降りる工事が行われているが、海部駅は高架駅のため転換ができない。このため、ひとつ徳島寄りの阿波海南駅(写真〈8〉)に転換施設を設け、阿佐海岸鉄道そのものの起点駅を阿波海南とする予定。

(8)新しい起点駅となる予定の阿波海南駅
(8)新しい起点駅となる予定の阿波海南駅

甲浦駅で列車を待っていると、室戸方面からのバスがやって来た。数人が降りて鉄路に乗り換えるべく、駅の階段を上がっていく(写真〈9〉〈10〉〈11〉)。

〈9〉室戸方面からの高知東部交通バス。甲浦発着のダイヤは鉄道との接続が考慮されている
〈9〉室戸方面からの高知東部交通バス。甲浦発着のダイヤは鉄道との接続が考慮されている
〈10〉階段を登ってホームへと向かう
〈10〉階段を登ってホームへと向かう
〈11〉甲浦駅から海部行きに乗り込む
〈11〉甲浦駅から海部行きに乗り込む

実は、このコースもかなり楽しめる。サーフィンの聖地も含む四国の南東部つまり「右下」はサイクリングなど観光に力が入っている。阿佐海岸鉄道と室戸方面へのバスも乗り継ぎが考慮されたダイヤで運行されていて、JR四国では「四国みぎした55フリーきっぷ」(写真〈12〉)という室戸岬経由の徳島から高知に至る鉄道とバスが乗り放題の企画切符も売り出されている。ちなみに「55」とはこのコースを走る国道55号のことだ(写真〈13〉)。

〈12〉甲浦駅の待合室に張られた「四国みぎした55フリーきっぷ」のポスター
〈12〉甲浦駅の待合室に張られた「四国みぎした55フリーきっぷ」のポスター
〈13〉室戸に向かう道路は、お遍路さんも通る道
〈13〉室戸に向かう道路は、お遍路さんも通る道

DMV導入後、現在のバス路線がどうなるかはまだ決まっていないが、少なくとも導入前の列車に乗るのは今のうち。ぜひ足を運んでほしい。【高木茂久】


※1 もともと長いトンネルがあったが、宅地造成などで山が削られ、構造体だけが残っている。ただ鉄道の運行に必要のないこの部分だけが残された理由はナゾだという。

※2 デュアル・モード・ビークルの略。旅客の少ない路線でのコスト削減を目指して開発されてきた。見た目はバスだが、鉄の車輪とゴムタイヤの両方を備えており、一見するとタイヤで走るバスそのものだが、レールを走る際は鉄の車輪が降りてくる。JR北海道で試験走行もされたが導入には至らなかった。