兵庫県の姫路、加古川の北部に位置する加西市を走る北条鉄道北条線はわずか13・7キロの第3セクター路線である。単線非電化で全線乗り通しても20分とちょっと。トコトコ走る列車に加え、国鉄時代からの古い駅舎など、地元の方の貴重な足として愛され続け、鉄道ファンにも人気があるが、この9月に歴史的な変化が訪れる。直前の現地を訪ねた。

 
 
〈1〉105歳の駅舎が残る法華口駅
〈1〉105歳の駅舎が残る法華口駅
〈2〉右から左に「ほっけぐち」と書かれていた跡が残る駅名標
〈2〉右から左に「ほっけぐち」と書かれていた跡が残る駅名標

まずは法華口駅である(写真1、2)。古い駅名標は、うっすらと以前の文字が残っているのが分かる。右から左へ書かれている。105歳の駅舎は登録有形文化財。しかし、その駅名標に面したホームは先日、役割を終えた。この夏から隣接するピカピカのホームが使用されている。105歳と0歳のコントラストを並んで見られる駅というのも貴重な存在だ。

今回の目的のひとつは、0歳のホームである。国鉄から北条鉄道に移管されて35年。初めて列車交換(すれ違い)設備が設置された(写真3)。もともとはすれ違い可能駅だったが、国鉄時代に撤去され、そのままになっていた。現在の運用は単線の13・7キロを行って戻るだけだが、9月から弾力性のある運用が可能になる。すでに来るべき日に向けて訓練が行われているが、北条鉄道では初の出来事。分岐ポイントを走る列車を見ようと、私が訪問した日(8月8日)も鉄道ファンの姿は多かった。

〈3〉北条鉄道で初めて行き違いができるようになった新設ホーム
〈3〉北条鉄道で初めて行き違いができるようになった新設ホーム
〈4〉法華口駅に設置されている三重塔のレプリカ
〈4〉法華口駅に設置されている三重塔のレプリカ

その法華口駅には立派な三重塔が存在する(写真4)。これは加西市の法華山一乗寺の国宝である三重塔の「レプリカ」である。レプリカとはいっても7メートルもの立派さ。では本物はどれだけ素晴らしいのか、と実際に行ってみることに。駅名からお分かりの通り、法華口は最寄り駅。ただし距離にして約5キロ。山中の一乗寺はつづら折りの坂道も続くため、徒歩よりもマイカーまたはバスをおすすめしたい(※1)。

〈5〉階段の途中にある三重塔
〈5〉階段の途中にある三重塔
〈6〉三重塔は平安期に建立された国宝
〈6〉三重塔は平安期に建立された国宝
〈7〉一乗寺の本堂
〈7〉一乗寺の本堂

「行ってみることに」なんて書きながら実は以前から行きたかったのだ(笑い)。約160段の階段をトコトコ上る。三重塔はその途中(写真5~7)。正直言って汗ダラダラだったが、平安時代の建立という雄大な姿は心を癒やされた。春は桜、秋は紅葉で一乗寺はさらに彩りを増すという。今度は紅葉の季節に行ってみたい(※2)。

〈8〉当時の防空壕
〈8〉当時の防空壕
〈9〉当時の入り口を再現している
〈9〉当時の入り口を再現している
〈10〉散策道ができている
〈10〉散策道ができている

いったん駅に戻り、次に目指すのは鶉野(うずらの)飛行場跡。戦時中の1944年に完成した旧日本海軍の飛行場で、川西航空機の工場も設置され、紫電改などが生産された。戦後は一帯が、民間や農林省(当時)と防衛庁(同)に払い下げられ、滑走路は2016年に加西市に払い下げられた。戦時中の滑走路がほぼそのまま残っている例は珍しいそうで、一帯の整備が進んでいる(写真8~10)。滑走路内や残存する各施設の一部は神戸大や民間の敷地内にあって、その部分に入ることはできないが、周辺を散策することは可能(ただし広大である)。毎月第1、第3日曜日には紫電改の実物大レプリカが公開されていて、当日は法華口駅からの無料シャトルバスも運行されている。(※3)

〈11〉田原駅の駅名標
〈11〉田原駅の駅名標
〈12〉現在の田原駅は10年前に改築されたもの
〈12〉現在の田原駅は10年前に改築されたもの

法華口のお隣の田原駅に向かう(写真11、12)。私にとって「ニュースで知った駅」のひとつである。高校生のころだったか「野村~田原の乗車券が売れている」というニュースをながめていた。これだけで分かるのは一定世代の方だが、そうでない方のために説明すると、80年代前半、田原俊彦さん、近藤真彦さん、野村義男さんのアイドル3人による「たのきんトリオ」が大変な人気だった。そしてだれが見つけたのか、田原駅と加古川線の野村駅が近いということで、多数のファンが訪れ、記念に乗車券を購入したという。

ちなみに野村駅とは現在の西脇市駅である。鍛冶屋線の廃線で西脇駅が廃駅となったことで現駅名となった。当時は「ふーん」としか思っていなかったが、今にして思うと、まだ北条線が国鉄で、鍛冶屋線もあったからこそ発券できた貴重な乗車券である。きっぷを購入した方々は、おそらく私と同世代。もし今もお手元にあるなら、ぜひ拝見したいものである。【高木茂久】

〈13〉法華山一乗寺のバス停
〈13〉法華山一乗寺のバス停

(※1)マイカー以外の場合は姫路~社を結ぶ一乗寺経由(写真13)のバスが10時~16時ごろまでの間、1~2時間に1本出ている(姫路からは約40分)。このバスは「法華口駅前」停留所も通り、同停留所からは約10分で一乗寺まで着くが、駅と停留所は徒歩5分と離れており、注意が必要。法華口駅の構内にバス停への地図がある。

(※2)拝観料500円。車で訪れた場合は、さらに駐車料金300円。

(※3)レプリカの公開は10時~15時。バスは13人乗りで10時~14時台まで1時間に1本の運行。