広島県の福山と塩町の約80キロを結ぶ福塩線(ふくえんせん)は福山~府中と府中~塩町で路線状況が大きく変わる路線だ。電化区間の前者は福塩南線と呼ばれ、1時間に1、2本の運行があるのに対し、福塩北線と呼ばれる後者は1日わずか6往復。しかも午前3本、午後3本と途中6時間運行がない通勤通学に特化した独特のダイヤで各駅訪問が極めて難しい。まだ青春18きっぷのシーズンだった4月4、5日の2日間、福塩北線の13駅(府中、塩町を含む)訪問を目指して旅立った。

〈1〉福山からの列車はすべて府中止まりとなる
〈1〉福山からの列車はすべて府中止まりとなる

最初に福塩北線のダイヤについて述べる必要がある。まず電化区間である福塩南線と福塩北線をまたぐ列車は設定されておらず、必ず府中で乗り換えなければならない。府中までは本数も多く昨年1月9日の記事で「同名の駅を求めて」という企画を行い福塩南線の高木駅を訪問した(訪問は一昨年12月)が、到達には全く困らなかった。1時間に1本以上の運行があるからだ(写真1)。

今回は、それ以来の福塩線乗車となるが北線に入るとダイヤは一変する。午前の府中発は5時38分、6時34分、8時11分。たったこれだけ。次は15時5分だから7時間近く空く(その後17時8分、19時32分で1日6往復。すべての列車が塩町経由で芸備線の三次に乗り入れる)。それだけではない。大阪から行くには福山経由となるが、新大阪から福山に最も早く着く新幹線に乗っても府中発8時11分に乗車できないのだ。3年前に福塩北線に乗車した時は前日入りして福山に泊まった。

それゆえ今回は2日間の日程としたが、初日に午後の3本だけ乗るのでは間に合わない。もうひとつ駅間の距離も課題となる。南線の約24キロに駅は府中を含めて14駅。北線の約54キロに塩町を含め12駅。これは駅間距離が長いことを意味する。地図を見ると、徒歩はどうかという勾配もある。そこで考えたのは因美線や姫新線で武器となったバス。かなり真剣にバスの時刻を調べた。2週間前に訪れた姫新線の経験があったからだ。

〈2〉赤丸の部分にバス停があったことに気づいた
〈2〉赤丸の部分にバス停があったことに気づいた

月田駅で2時間半も滞在している間、駅の地図で荒田橋というバス停を発見(写真2)。調べると中国勝山からバスが来ている。知らない場所なので徒歩で30分ぐらいだろうか。そのぐらいなら歩ける。全行程には関係しないが、月田で2時間半待つのとコンビニも店舗もある中国勝山では時間のつぶし方が違う(パトカーが来たりで結果的には貴重な体験をしたが)。

〈3〉読みは違うが徳島県にも府中(こう)駅があるため(塩)の文字が入る
〈3〉読みは違うが徳島県にも府中(こう)駅があるため(塩)の文字が入る

どうも都会にいると駅から歩くのがイヤで目的地に近い停留所で降りられるバスを利用するという発想になってしまっているが、その考えは捨てよう。「○○駅」とかではなく、とにかく駅まで歩けそうな停留所を地図から探しダイヤをメモ。つまり初日は青春18きっぷの出番はなくなった。福山までエクスプレス予約で新幹線利用し、そこから18きっぷを使っても1000円ぐらいで終わりそうだ。ということで府中までの乗車券を買って出発である。(写真3)

◆(バス)府中駅前10時24分→下川辺10時34分

〈4〉福塩線の重要駅である府中
〈4〉福塩線の重要駅である府中
〈5〉府中駅前のバス停
〈5〉府中駅前のバス停

と、延々能書きをたれながら、いきなりずっこけた。9時に府中に到着してバス停に行くと乗ろうとしていたバスが時刻表になく、よく見るとメモしていたのは平日ダイヤだったことを知る(写真4、5)。めちゃ焦った。だが幸運なことに約1時間後に休日ダイヤのバスがあった。次のバスは4時間後。助かった。その後の旅程は時間に余裕をとってある(というかバスの本数がない)ので事なきを得た。ちなみにこのバスは福山駅から出ている。

〈6〉下川辺駅。かつてはここまでが電化されていた
〈6〉下川辺駅。かつてはここまでが電化されていた
〈7〉下川辺の駅名標
〈7〉下川辺の駅名標
〈8〉住宅街に棒状ホームがたたずむ
〈8〉住宅街に棒状ホームがたたずむ

ここでようやく鉄道の話となる(笑い)。下川辺は府中の次の駅。バス停から3分ほど。コンクリート駅舎に住宅街に面した棒状ホームがある(写真6~8)。戦後の一時期、府中から当駅までの1区間が電化されていた。手元に1961年9月の時刻表(復刻版)があるが、1日に3本、福山発下川辺行きの列車が設定され、21時台に府中~下川辺1区間折り返しの列車が1本あり、それが最終。ただ架線が撤去された後の64年9月の時刻表では福山発下川辺行きはなくなり、朝の7時台に1本だけ下川辺発府中行きの列車があった。電化路線の架線撤去というのは国鉄とJRでは珍しい例である。

◆(バス)父石大渡橋11時10分→11時38分矢多田

〈9〉父石大渡橋バス停。なかなか難読だ
〈9〉父石大渡橋バス停。なかなか難読だ
〈10〉屋根付きのバス停で大いに助かった
〈10〉屋根付きのバス停で大いに助かった
〈11〉雨の中、バスがやってきた
〈11〉雨の中、バスがやってきた

「ちいしおおわたりばし」と読むバス停は最初に乗車したバスの下川辺のひとつ手前(写真9~11)。歩いてもすぐだが、ここから府中~上下を結ぶバス(※)が分岐する。休日は1日4本しかないが、下川辺停留所から下川辺駅を経て歩いてくるとピッタリの時間となる。この時間帯は雨がひどかったが、これまたラッキーなことに屋根付きのバス停だった。

※こちらの路線は府中の駅前ロータリーからではなく、駅舎の逆側にある天満屋ハッピータウン横の道の駅から出ているので注意。

〈12〉備後矢野駅に近い矢多田停留所
〈12〉備後矢野駅に近い矢多田停留所
〈13〉線路が近づくとうれしくなる
〈13〉線路が近づくとうれしくなる

矢多田から備後矢野駅までは徒歩で約20分。小雨になった道路を歩くと線路が近づいてうれしくなる(写真12、13)。道中に牛舎があるのに気づかず「モ~」と鳴かれてビックリしたが趣のある木造駅舎に到着。今回の旅はお昼にここに来ることが目的だったといっても過言ではない。駅舎に「福縁阡うどん」のお店があるのだ。

〈14〉木造駅舎が残る備後矢野駅
〈14〉木造駅舎が残る備後矢野駅
〈15〉備後矢野駅の駅名標。駅はすれ違いが可能な構造となっている
〈15〉備後矢野駅の駅名標。駅はすれ違いが可能な構造となっている
〈16〉3種類のもちが入った福縁阡うどん
〈16〉3種類のもちが入った福縁阡うどん
〈17〉福縁阡うどんの由来
〈17〉福縁阡うどんの由来
〈18〉お店は線路に面している
〈18〉お店は線路に面している

「ご縁」にちなんで3種のお餅が入って555円(写真14~18)。うまい! もちろんビールもいただく。公共交通機関を利用した旅の特権である。ホームを眺めながらの至福の時間だったが、残念ながらランチタイムに列車は来ない。そういえば混み合っていた店内のお客さんは皆が車だった。【高木茂久】


◆備後矢野駅の福縁阡うどんについては「ローカル線で行こう! 鉄旅ガイド」(写真)を参照させていただきました。

「ローカル線で行こう! 鉄旅ガイド」
「ローカル線で行こう! 鉄旅ガイド」