JR西日本は先日、輸送密度2000人未満の経営状況を発表しました。予想通り、いや予想以上の悪い数字が並んでいます。ちょうど芸備線の紹介記事を書いていたタイミングだったこともあり、あくまでも私見とおことわりした上で、芸備線を中心に個人の感想を記してみたいと思います。

 
 

発表があったのは4月11日。春の青春18きっぷのシーズンが終わった翌日というのが、なかなか考えているなと思いました。もう1週間早ければ、日常的な利用者が乗り切れないというような事態も起きていたでしょう。(写真1)

〈1〉小奴可駅を出る早朝の芸備線
〈1〉小奴可駅を出る早朝の芸備線

発表は輸送密度2000人未満の区間(路線ではない)を対象に運賃収入、赤字額、営業係数です。JR西日本ホームページのプレスリリースで見られるので、その数字をもとに、記事を書いていきます。

この中でまず輸送密度とは何か? 簡単に言うと当該区間を1日にどのぐらいの人が利用したかという数字です。A駅からB、C、D、E、F、G、H駅に至る途中6駅の区間があるとします。すべての乗客がA~Hを乗り通すとは限りません。途中の2区間だけ、3区間だけという人もいるでしょう。またA駅と途中のE駅が大きな駅の場合、A~Eは乗客が多くてE~Hは少ないことも考えられます。もっと言うと、海水浴など季節に左右される路線や駅もあります。それらをギュッと凝縮して1日あたりの平均値を出します。

営業係数は100円稼ぐのにどのぐらいのお金が必要かという数字。100円未満なら黒字となります。

対象路線は17路線の30区間。芸備線、木次線、大糸線、福塩線、因美線、越美北線、姫新線、山陰本線、関西本線の亀山~加茂など。うーん、本欄で紹介してきた路線(区間)ばかりですね。

目を引くのは芸備線の東城~備後落合の営業係数2万5416円。100円稼ぐのに2万5000円もかかる。これは天文学的な数字です。同じく芸備線では備中神代~東城の4129円、備後落合~備後庄原の4127円。木次線では備後落合~出雲横田の6596円が目立ちます。かつて北海道にあった美幸(びこう)線(JR移管前に廃線)は「日本一の赤字路線」をウリにしたこともあったほどでしたが、貨幣価値が若干異なるとはいえ当時の営業係数は4700ほど。それを考えてもかなり悪い数字です。(写真2)

〈2〉備後落合の駅舎内
〈2〉備後落合の駅舎内

さて、どうして路線数と区間数が異なるかというと、長い路線の場合、前述した通り、利用者の多い区間と少ない区間があるからだと思われますが、一覧を眺めていると多少の疑問がなくもない。運行が分断される路線ならいざ知らず、一体化した運行の中で細かく区切るのは、その部分を目立たせる意図があるように感じてなりません。輸送密度という尺度は路線を恣意(しい)的に分断できてしまうのです。プレスリリースを見ると芸備線の下深川~広島は非電化単線区間とは思えない輸送密度8000人超という超優等生区間(それは詰め込みという別の意味で問題です)となっています。折り返し列車が多数設定されているとはいえ、なにゆえ広島市内で輸送密度を分断するのでしょうか。

また黒字区間も含め、他路線の数値が公表されないことも、いろいろ考えてしまいます。「大阪環状線でもこれだけしかもうかっていません」とやれば、話は簡単なのに。目を転じて公表データの営業損益を見ると、また違った姿も見えてきます。東城~備後落合は2・6億円。備中神代~東城は2億円と30区間の中では少ない方です。対して山陰本線の出雲市~益田が34・5億円、紀勢本線の白浜~新宮が28・6億円と大きな数字となります。これは輸送密度の二律背反で抽出したキロ数が違うから。東城~備後落合25・8キロに対し、出雲市~益田は129・9キロ。また特急を走らせていることも影響しているようです。そもそも1日3往復しかないのでは赤字が膨らむにも限度があります。

となると「ははぁ。輸送密度2000人以上でも赤字額が多い区間があるんだな」と思わざるを得ない。「こちらの方が赤字が多いではないか」という反論を回避するためではないかと邪推してしまいます。私はJR西日本の各路線はかなり乗り込んでいる方だと自負していますが、発表された路線図を穴が開くほど何度も見直してしまいました。

とはいえ、JR西日本は上場企業です。JR移管の際に3島の会社(北海道、四国、九州)に与えられた1社数千億円単位の経営安定基金も受け取っていません。コロナ禍で大幅減収となり、今年3月の決算でも1131億円の赤字。このほど京阪神エリアでJR移管前から設定されていた特定区間運賃(競合私鉄に対抗するための安めな運賃)の値上げを発表したほど。

また今回の発表はあくまでも運賃に関するもので、保守関係などの管理費は含まれていません。私が3月に芸備線の内名駅を訪れた際、たまたま照明器具の点検に遭遇しました。4人の方が構内の照明をチェック。1日に往復で6本の列車しか来ないにもかかわらず大変な作業。駅があれば電気代もかかります。もちろん線路の保守作業は絶対。1日の利用者が11人しかいない東城~備後落合で、お金はもちろん、これだけの人と手間がかかるのでは株主さんにも何らかの説明が必要となるでしょう。(写真3)

〈3〉内名駅では照明の点検が行われていた
〈3〉内名駅では照明の点検が行われていた

閑散区間の活性化として、まず考えられるのは地元の協力を得ての観光列車の運行です。新見~備後落合間の途中駅で1度降りてみたいという人はかなり多いはず。JR東海の飯田線を行く「急行・秘境駅号」は大変な人気列車となっています。私は10年前の運行間もないころ、チケットも2週間ぐらい前に確保できる時代に乗車しましたが、当時からすごい人。団体客であふれ、平素は鉄道に興味がなさそうな人ばかり。また同じころ岩手県の山田線を走っていた「木造駅舎号」で停車は1日2、3本、冬季休業で「熊に注意」の張り紙で有名だった大志田駅、そして浅岸駅に行くこともできました。両駅とも、その後廃駅となりましたが、こちらも多くの人であふれていました。

いくつか問題はありますが、急行そして全車指定席としてJRの運賃確保とする。東京からの新幹線始発に間に合うよう岡山始発が理想ですが、新見~三次の運行でもかまわない。少なくとも布原と東城~備後落合間の各駅そして比婆山、備後西城、備後庄原、塩町には停車したい。それぞれ10~30分ほどの時間をとる。問題はどんな車両を充当するか。最低でも2両編成はほしいところです。また当該区間の路盤も現在どうなっているか心配です。(写真4)

〈4〉備後八幡駅を出る芸備線列車
〈4〉備後八幡駅を出る芸備線列車

ただ観光列車だけでは一時的なカンフル剤にしかならないので定時列車の乗客を増やすことが必要です。全国的に鉄道を支えているのは高校生。地方に行けば行くほど重要性が増します。残念ながら当該区間は東城の東西で岡山県と広島県に分かれるため、県をまたぐ高校生の需要は少ない。広島県側は東城への通学が多いとみられ、備後落合~東城で見ると備後落合を6時41分に出て東城に7時半に到着する列車は一応、始業の時間には合っていますが、その逆は東城発が13時39分で、その次が19時4分でしかも最終と全く高校の授業に合わない(岡山県側は平日6往復あり、一応通学に考慮したダイヤになっています)。

上下分離方式(自治体がレールと駅を維持して運行は鉄道会社が担う)というのは、地方自治体の財政を考えるととても無理です。乗車を促す鉄道用の補助金も含め、ダイヤについても自治体と鉄道会社で話し合う余地はあるでしょう。

ハードルはやや高くなりますが、先日、滋賀県で全国初となる「交通税」の提案がありました。鉄道をはじめとする公共交通機関の減少を防ぐための財源にするとか。どのくらいを徴収するかは未定のようですが、県単位にすると全く離れた場所に住む方は納得できないだろうし、沿線住民でも全く利用することのない方は、たとえ年間1000円でも払いたくないという声が多いかもしれません。しかし提案の価値はあると思います。道路についてはいろいろな税金を徴収しながら、鉄道については地域と鉄道会社に丸投げしていた国の出番のタイミングでもあるでしょう。(写真5)

〈5〉芸備線利用を促すのぼり(平子駅で)
〈5〉芸備線利用を促すのぼり(平子駅で)

以前、沿線の各駅に利用推進のポスターやのぼりがあった、とあるローカル線の駅に向かっていた時のこと。本数が少ないため例によって鉄道以外の方法でアプローチした私は、駅まで徒歩5分ほどのところで目にした役場に入りました。地図を見ると駅舎が線路の逆側にあったからです。駅前に行きながら駅舎が線路の向こうにあってグルリ遠回りをしなければならないのは、よくあること。それを確認しようとしたところ、最初の2人が「えっ! ちょっとお待ちください」。周囲に声掛けをしてようやく解決しました。ローカル線沿線で住民の方に駅を尋ねても芳しい回答がないのはよくあることですが、役場があるぐらいなので地域の代表駅です。役場から駅まで徒歩5分の道順を役場勤務の方が知らないのは、さすがにガックリきました。

「それでもオマエは鉄道ファンか」と言われるかもしれませんが、これだけ道路が発達すると、1両編成の列車が走る時点で大量輸送が可能という鉄道ならではの役割が失われていることは事実です。重要なインフラでもある病院へはバスの方が便利だという事実があることも否めません。ここは公的機関が、ある程度の回答と空気を持って鉄道会社と話し合うべきだと思います。もちろん私は存続を願ってやみません。【高木茂久】