「せとうち」への旅-。中国、四国地方への旅は、その間にまたがる瀬戸内海とセットにした旅行商品が最近は多い。今回参加したJR西日本のツアーも、その流れに沿って瀬戸内海のクルーズが3本も盛り込まれていた。宿泊は広島市内だったが、船に乗り船を下りては、また船…。初夏の風をたっぷりと感じる旅となった。


◆せとうち島たびクルーズ 広島午前8時10分発、竹原午後1時10分着の東向き航路、瀬戸田午後1時50分発、広島午後6時20分着の西向き航路がある。団体ツアー専用商品。

◆夕呉クルーズ 日の入り時刻15分前出港。大人1300円(火曜定休)。

◆尾道水道クルーズ 7月14日~10月21日の土・日祝日運航。1日3便(午前11時、午後1時、午後3時)。大人1500円。


朝8時10分東京駅発の新幹線。向かったのは広島県・福山。サンドイッチとホットコーヒー、それに朝刊を読んでいたら意外にすんなりと福山駅に到着した。11時41分。天気は快晴である。

ここからはバス。瀬戸内海の6つの島を10本の橋でつないだ「しまなみ海道」を利用して生口島(いくちじま)の瀬戸田という港へ。

ここで昼食である。名物の「あなごめし」。広島の、特に宮島のあなごは有名だが、瀬戸内全体でも郷土料理として全国的に知られている。肉厚でやわらかい食感。ほくほくとしておいしい。箸が進み、なんだか昼からぜいたくな気分である。

で、この瀬戸田から観光用の「せとうち島たびクルーズ船」に乗船した。


呉湾夕呉クーズでは湾内に停泊する自衛隊の艦船も間近に見ることができる
呉湾夕呉クーズでは湾内に停泊する自衛隊の艦船も間近に見ることができる

呉に向かうのだが、途中、ウサギの島として有名な大久野島(おおくのしま)に立ち寄る。

ウサギの島といっても、周囲4・3キロの島に約700匹のウサギ。だから、いきなりウサギに囲まれるという状況ではない。

ベンチの下に休んでいるのを見つけたり、草陰に隠れているのを見たり。奈良の大仏さま周辺で鹿に囲まれてエサをねだられるとか、そういった多さではないのである。

ほどよい距離感。おやつをあげようとすれば寄ってくるほどには慣れている。そしてなによりのモフモフ感に癒やされる。

そしてこの島には唯一の宿泊施設「休暇村大久野島」があるが、周囲は緑と海だし、天然温泉もあり、釣りにサイクリングにと、リゾート感たっぷりに楽しめそうだった。


ウサギ島として知られる大久野島
ウサギ島として知られる大久野島

この大久野島から、再び船で呉に移動する。

そして、日没の時間の15分前に呉の桟橋を出航する別のクルージングに。

それが「夕呉(ゆうぐれ)クルーズ」だ。広々としたオープンデッキの船。なぜ、日没に合わせるかといえば、このクルーズ、港に停泊する海上自衛隊艦船の艦旗「降下式」を見るからである。

海上には、練習艦、護衛艦、掃海艇など大きな艦船が居並ぶ。潜水艦も盛んに水を吐き出していた。これだけの艦船を間近に、それも海上から見られるのは珍しいのではないか。

そして、日没。

艦旗降下に合わせてラッパ奏者が高らかに君が代を吹奏する。水平線があかね色から薄墨色に変わっていく。

慌ててカメラのシャッターを切っていると遠く甲板上から、自衛隊の人たちが大きく手を振ってくれた。

広島に泊まり、翌日、「安芸の小京都」と称される江戸の趣を残す竹原を経由して尾道に寄る。ここで乗った船が「尾道水道クルーズ」。

尾道港を出港し、目の前の向島との間、尾道水道を約1時間かけて運航する。目的は日本遺産にも認定された尾道全体の景観を海から眺めようというものだ。

確かに海からすぐ駆け上がるような山の斜面、そこに展開する家々、お寺、そして何本もの坂道。まるで箱庭のような景観が一望できた。

そして、下船。

その後は、千光寺山ロープウェイで144メートルの山頂へ一気に昇る。乗車時間は3分である。

頂上の展望台からの絶景は、今しがた海から見た景色とまた一味違う。瀬戸内海、その先の向島が大きく見下ろせた。海の青、空の青が美しい。尾道は美しい所だ。


千光寺山ロープウェイから尾道水道を見下ろす。見事な景色だった
千光寺山ロープウェイから尾道水道を見下ろす。見事な景色だった

この展望台から下へブラブラと歩いて下りる。

まずは約1キロほどの「文学のこみち」。聞けばなんと25もの文学碑が立つとか。

正岡子規の「のどかさや小山つづきに塔二つ」。

松尾芭蕉もある。「うきわれを寂しがらせよ閑古鳥」。

林芙美子の文学碑もあった。「海が見えた。海が見える…」。

いかに多くの文人墨客たちが、この風光明媚(めいび)で温暖な尾道を愛してきたかをうかがわせる。


尾道駅近くに立つ林芙美子の文学碑
尾道駅近くに立つ林芙美子の文学碑

そして、この街のシンボル的存在でもある「千光寺」。さらに進むと「猫の細道」へと進む。「猫の細道」は猫がモチーフのオブジェがあちらこちらに見える。そして本物の猫、猫。猫好きが猫を呼び、猫がまた猫好きを呼ぶ。

「いつの間にか尾道は猫でも有名な街になっていました」(尾道観光協会)。

それぞれの人の歩くスピードにもよるが、上から下へざっと40分ほどの散歩コース。海と風と文学と…。それに猫も加わって、尾道は趣豊かな散歩となった。

【馬場龍彦】


癖になりそうな尾道ラーメン

「尾道に行ったらラーメン食べてみてくださいね」。出発前に同僚にそう言われていた。そこまで有名ならばと地元の人気行列店「朱華園(しゅうかえん)」に寄る。午後3時過ぎ。そんな時間でも店内はほぼ満席だった。

「中華そば」(600円)を注文。5分ほどでテーブルに運ばれてくる。人気店とはいえ、このスピード感がいい。

豚の背脂が浮いた鶏がらベースのしょうゆスープ。コクがあるのにしつこさがない。平麺にスープがよく絡まってうまい。


「朱華園」の「中華そば」
「朱華園」の「中華そば」

一緒に食べたラーメン大好き氏は「飽きのこない、それでいて癖になりそうな味ですね。僕が近所に住んでいたら毎日来ちゃうかもしれません」と上手なコメントで絶賛していた。