「雛(ひな)人形流し」のニュースを以前、テレビで見たことがあった。和歌山県の神社で、人形を海に流す行事。3月3日の雛祭りに行われ、「春の風物詩」としての紹介だった。その中で、特に印象的だったのが流されるお人形さんの表情である。喜怒哀楽があるはずもないその顔に、どこか、憂いを感じたのである…。以来、その神社を1度、訪ねてみたかった。

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神社の名は「淡嶋神社」。今回、和歌山市加太(かだ)町には、「鯛」の取材で訪れたのだが、その加太の淡嶋神社で、創建以来1700年の歴史を持ち、毎年3月3日には、全国から奉納されたひな人形を、おはらいをした後、海に流すという神事が行われているのだ。実は2021年の今年もコロナ禍の中、一部簡素化して行ったときいた。


全国から奉納されたひな人形を、おはらいをした後、海に流す
全国から奉納されたひな人形を、おはらいをした後、海に流す

淡嶋神社の赤い大きな鳥居は海を目の前にして、堂々とした姿。

その鳥居をくぐれば、もう、いたるところに人形が置かれている「人形世界」が待っていた。信楽焼の狸もいれば、干支(えと)人形や招き猫も。所狭しと飾られるように並んでいる。

が、なんといっても目につくのは拝殿の中、そしてその周囲に並ぶ雛人形などの日本人形である。


人形流しの歴史を語る前田宮司
人形流しの歴史を語る前田宮司

「常時2万から3万体のお人形が飾られています。また、毎日毎日、段ボールに何箱もの人形が送られてきたり、持ってこられたり…」

こう語るのは宮司の前田智子さん。

--持ち込まれる方には、いろいろな思いがあるのでしょうか?

「そうだと思います。娘さんが亡くなられて、家で飾ってあったものが、つらいので持ち込ませてもらっただとか、祖母の代からの人形だが、もう家が狭くなって置けなくなったとか、泣きながら持って来られる方もいらっしゃいますよ…」

そんな話を聞いたあと、何千と、静かに並ぶ人形をみていると、不思議にどの顔も思いを秘めて、こちらを見つめているように見えてくる。まばたきしない大きな目に憂いさえ感じるのである。

また、ここは婦人病に効く神様や安産祈願の神様を祭ってある神社として有名と聞いた。もしかしたら、お人形のおかげで、気持ちの上で、救ってもらった病気や病人もあったのかもしれない…。そんな思いも巡ってきた。人形の持つ不思議なパワーまで感じられる貴重な体験。お人形さんたちに心の中で頭を下げて、この神社を後にしたのだった。


宝木宝木神社の当銭岩
宝木宝木神社の当銭岩

さて、今回、県内の別の神社へも足を延ばした。それは加太から車で1時間半あまり。有田川町の紀州宝来宝来(ほぎほぎ)神社。ご神体が岩で、「当銭岩」と呼ばれている。その名前からきたのか「和歌山に宝くじの当たるパワースポットがある」と知れ渡り有名になった。県外からも参拝者が後を絶たない。ただし、かなりの山の上にあり、車で行ったのだが、かなりの急勾配を走って上りついた。

鳥居をくぐって、「当銭岩」の前に進むとその岩に両手を当てて「ホギホギ」と3回唱えるとある。何ごとも信じる気持ちが大切と、こちらも「ホギホギ」「ホギホギ」。どうぞ、今年は全国的に良い年になりますように…。そして、もう1度「ホギホギ」と唱えたのだった。