【運動能力(中)】

 日本体育大学でも遺伝子検査をしている。中里浩一総合スポーツ科学研究センター長(47)は「10年ほど前から体育会の学生約2000人を対象に検査している。ACTN3という遺伝子を検査することによって、パワー・瞬発系に向くR/R型、あるいはR/X型か、X/X型か、調べます」と話す。

 日体大には、全国からスポーツが得意な学生が集まる。菊池直樹スポーツトレーニングセンター研究員(30)は「競技力の高い人の中でも、五輪に出るような選手を調べると、ほとんどR/Rしかいない。レスリング選手では、全日本→国際大会→五輪とレベルが高くなるにつれ、X/Xは少なくなり、五輪に入賞するレベルになるとゼロになる」と研究結果をまとめた。

 100メートル9秒58の世界記録を持つウサイン・ボルトら短距離トップクラスはジャマイカ出身が多い。「人種によっても違い、ジャマイカ人は98%がR/RとR/X。X/Xは2%しかいない」(菊池研究員)という。持久力の必要な長距離も、競技のスピード化により、R/R型が増えている。

 遺伝子検査の結果は、学生に1人ずつ返している。「別の競技が向いているから変えた方がいいということはしていない。R/Rだから、もっと頑張ろうとモチベーションにすることはある。X/Xで一瞬ガッカリしても、そんなことは関係ないと練習をまた始める学生もいる。それでいい。遺伝子の結果は主要因ではないので、努力や練習を継続できるかなどの方が重要です。R/Rしか勝てないとなると、夢がない」(中里センター長)。

 トレーニングコーチという立場から菊池研究員は「遺伝子の特性を理解した上で、コンディショニングやパフォーマンス向上を目指したトレーニングに有効利用できるようにする」ことが目標だ。(ライター:大田健)