肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【高騰する肺がん治療薬】

 2017年2月に、オプジーボの薬価が半分になりました。

 オプジーボは患者さんの体重1キロあたり、3ミリグラムを2週間に1回投与します。1年間で26回投与することになります。これまでは体重60キロの患者さんの1回の薬剤費が約130万円で、1年間では約3500万円になりました。半額になっても年間1800万円近い薬剤費がかかります。

 では、オプジーボだけが高額なのでしょうか? オプジーボと同じ免疫チェックポイント阻害薬であるキイトルーダも1年間使用すると約1400万円かかります。ALK阻害薬であるアレセンサーは1カプセル約6600円です。1日に4カプセル服用するので、年間約960万円かかります。新しいEGFR阻害薬であるタグリッソは1錠約2万4000円で、年間約880万円かかります。

 このように近年発売された肺がん治療薬はいずれも非常に高額になっていることは事実です。これは薬の研究開発に莫大(ばくだい)な費用がかかるためともいわれています。しかし年間約1000万円も自己負担できる患者さんは少ないでしょう。

 これらの薬は肺がんに対しては、健康保険の枠内で使用されます。オプジーボを使用した場合の患者さんの自己負担が3割だとすると年間500万円以上もの自己負担が生じることになります。実際の患者さんの負担額は、年齢、収入により異なりますが、高額療養費制度により月に8000円から25万円程度の負担になります。患者さんの自己負担は少なくなりますが、多額の公的資金が必要であることに変わりはありません。

 肺がんに対する有効な薬がたくさん開発されていますが、どれも高額な薬です。有効な薬があることは大変喜ばしいことですが、まずは受動喫煙を含めた喫煙対策をしっかりやって、肺がんそのものを減らすことがより重要です。

 ◆高額療養費制度 医療費の家計負担が重くならないよう、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1カ月で上限額を超えた場合、その超えた額を支給する制度。上限額は、年齢や所得に応じて定められる。いくつかの条件を満たすことにより負担をさらに軽減する仕組みもある。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。