肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【今後の肺がん治療はどうなる?】

 この数年の間に、肺がんの治療、特に分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などによる薬物治療は大きく進歩しました。それでは、今後の肺がん治療はどのように変化するのでしょうか?

 手術可能な肺がんに対しては、今後も手術が主体になることは間違いありません。手術の方法は縮小手術や胸腔(きょうくう)鏡を使った低侵襲手術がさらに進歩するものと考えられます。

 高齢者の肺がんには、定位放射線治療などの高精度放射線治療が今よりも広く行われる可能性があります。

 手術ができない患者さんや再発した患者さんには、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、抗がん剤治療が行われますが、いずれの場合もがん患者さんの遺伝子の情報などをもとに、使用する薬剤を患者さんごとに選択する精密医療(precision medicine)がさらに推進されることは間違いありません。

 EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子に加えて、がんの原因である新しい遺伝子変異が今後も見つかると思われ、これらを標的とした分子標的薬も開発されると期待されます。免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用や免疫チェックポイント阻害薬同士の併用も現在、研究が進められています。

 抗がん剤治療もこれまで同様に重要な位置を占めるはずです。<1>血管新生阻害薬を含む分子標的薬<2>免疫チェックポイント阻害薬<3>抗がん剤治療が、肺がんに対する薬物治療の3本柱であることは変わらないと思います。

 肺がん患者さんを、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、抗がん剤治療を用いた薬物治療で治癒させることのできる日が、すぐそこまで来ていると思います。(おわり)

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。