人が怒るのは、自分が信じている価値観が目の前で裏切られたときです。「○○するべき」の「べき」が裏切られたときと言っていいかもしれません。少し前までなら、入社した会社は定年まで働くべきで、上司がいるうちは帰るべきではなくて、会社の飲み会は参加すべきでした。良くも悪くも、働くとはこういうものだという価値観を共有していました。

 今はワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)、ダイバーシティ(価値観の多様性を受け入れた人材活用)など、さまざまな働き方を許容しようという社会に変わっています。自分とは違った価値観で働く人が周囲にたくさんいます。遅刻をLINEで連絡してくるとか、電話を取らないとか、仕事が終わっていないのに定時で帰るとか、自分の価値観とは違う行動を取られて、イラッとする。そんな機会が会社だけでなく、学校でも社会でも増えています。

 怒りの増加の背景には技術の進歩もあります。便利になると、人は待てなくなります。電車が1本遅れてもイラつく人がいます。携帯電話もなく、駅に掲示板があって待ち合わせの伝言をしていた時代は、待つことができた時間を待てなくなりました。待つとか耐えるといった耐性が下がっているのです。

 アンガーマネジメントは、怒りの機会の増加と褒める文化への反動で注目されています。この10~15年、学校でも会社でも「褒めて育てる」でした。その結果、叱ることができなくなった人が増えました。指導には褒めることも叱ることも必要です。叱る技術としてアンガーマネジメントが注目されているのです。