有名なフレーズ「覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか」。国立精神・神経医療研究センター「薬物依存症治療センター」の松本俊彦センター長が、少年から聞いた話を振り返った。

 「『俺のおやじは人間じゃないんだって思いました。人間じゃないおやじから生まれた俺も、たぶん人間じゃない』と。人間不信になった彼は自ら悪い仲間に近づいて、自分からこいねがって覚醒剤を手に入れて、使ったそうです。もちろん、そうした子どもたちは一般からすると、ごくわずかでしょう。しかし、そうしたごくわずかの子どもたちの方が、薬物を使うリスクが高いのです。単に脅かして怖がらせるだけであってはなりません。実際に回復し、頑張っている人を傷つけるようなことは避けるべきです」

 少年が学校の薬物乱用防止教育を受けていた最中、父親は覚醒剤で逮捕され、刑務所で服役していた。どうすればリスクの高い子どもたちに対して、より安全、安心と思われる啓発ができるのか。そして、リストカットを繰り返すような子どもたちが、なぜ薬物乱用に陥るのか。

 「自傷する彼らは、決して死にたくてやっているわけではない。死にたいくらいの状況の中、誰の助けも借りられず、つらい気持ちを紛らわしたり、弱めたりしたいだけなのです。学校で行っている薬物乱用防止講演のアンケートで分かったのは、“体の痛みで心の痛みにフタをしている子どもたち”がいるということでした」(松本氏)。

 喫煙、飲酒などの非行に走りやすい背景に、もっと目を向けるべきではないか。松本氏がそれを問う中で得たのは、依存症の根っこにあるのは「人に依存できない」ことであるという結論だった。

 「つらいときにアルコールや薬物というモノによって、心の痛みを抑えているのであって、本当は現実の人に助けを求めないことが一番の問題だろうと思います」