<心臓弁膜症(8)>     

 心臓弁膜症の中で最も手術が多い大動脈弁疾患では、4つの手術法が行われています。すでに「人工弁置換術(機械弁)」「人工弁置換術(生体弁)」を紹介しましたので、今回は3つ目の「自己心膜を使用した大動脈弁形成術(尾崎式)」を紹介します。この手術は「尾崎式」の名称もあるように、開発をしたのは私です。

 ◆自己心膜を使用した大動脈弁形成術(尾崎式) 私たちが行っている手術方法は、患者さんの心臓を包んでいる心膜を一部切除して使います。取り出した心膜をそのまま使うのではなく、グルタールアルデハイド溶液に10分間浸し、心膜の強度を上げます。これは牛、豚を用いた生体弁でも行われている方法です。

 次に、石灰化した大動脈弁のおわん形の弁である3枚の弁尖(べんせん)を切除し、弁尖がついていた弁輪(弁の丸い枠の部分)の石灰化部分を、超音波吸引器で除去します。切除した弁尖は、私が開発した弁尖サイザーでサイズを測り、強度を上げた心膜をそのサイズに合わせ裁断します。弁尖の大きさは患者さんによって異なりますし、3枚ある弁尖もそれぞれ大きさが異なります。そのため、弁尖サイザーのサイズは患者さんに合うように、数多くそろえてあります。

 作製した弁尖の合わさりは、元の弁尖よりも深く作ってあります。これは、血流が逆流しにくくなる工夫なのです。最後は、工夫を施して作りあげた弁尖3枚を元の大動脈弁の位置に縫い付けます。そして、心臓を再始動させ、手術は終了です。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)