<心不全(1)>

 「心不全」-この言葉はよく耳にされると思います。多くの方は心不全を心疾患の病名と思っていらっしゃるようですが、実は病名ではありません。これは病気の状態を表す名称です。これまで紹介してきましたように、心臓は血液を全身に送り出すポンプの役割をしています。それが、さまざまな原因で心臓の機能が低下して、全身へ血液をしっかり送り出せない状態を心不全といいます。

 日本は高齢化がどんどん進んでいることから、心不全の患者数は増加しています。その原因は高齢化以外に「高血圧」、「狭心症・心筋梗塞」、細菌やウイルスなどによる感染症で発症する「心筋炎」、心臓の筋肉に障害が生じる「心筋症」、「心臓弁膜症」など、心不全にいたる道は数多くあります。だから、まずは心不全にいたった原因を治さねばなりません。治療法はその原因によって異なってきます。

 症状は「階段を上ると息切れがする」「重い荷物を持って歩くと息切れがする」「疲れやすい」「だるい」などの症状が初期には出てきます。しかし、60代、70代の人では、つい年のせいにしてしまいがちです。これまでなかった症状に少しでも気付いたら、気のせい、年のせいにしないで、内科をまずは受診するのが“賢い患者学”です。

 これを放置してしまうと、その症状があたりまえになり、「何か変だ!」とは思わなくなり、症状は日々進行してしまいます。進行すると、「あおむけになって寝ると、せきが続いたり息苦しかったりする」ように。そして、その時に体を起こすと状態は楽になります。このような体の声が症状です。自分自身の体の声に耳を傾けることこそ大事なことで、早期に病気を発見するコツなのです。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)