<心不全(5)>

 心疾患で亡くなる人は年間約20万人。その中の約7万人が心不全で亡くなっています。また、2016年に心不全で入院した患者数は約24万人と、しっかり治療をする必要があります。その心不全の患者さんの10人に1人が「心原性ショック」を起こし、その中の半分の人が亡くなっています。さらに、適切な治療が行われないと85%が亡くなっているのです。

 心原性ショックは心臓のポンプ機能が急激に悪化し、十分に酸素の供給ができなくなる状態です。これが最も厳しい心不全で、症状としては「皮膚蒼白(顔面蒼白=そうはく)」「血圧低下」「意識障害」を起こし、臓器障害という多臓器不全に結びつきます。とにかく、早急にポンプ機能をカバーする必要があります。つまり、救急車で運ばれ、速やかに治療を受ける必要があるのです。

 薬が効かない状態での治療は、心臓をサポートする器械を取り付けます。この方法は「補助循環法」と呼ばれています。それには、いくつか治療法があります。そのひとつが「大動脈バルーンパンピング」。脚の付け根の大腿(だいたい)動脈からバルーンを挿入し、下行大動脈にそれを留置。そこでバルーンを心臓の動きに合わせて開いたり縮めたりし、特に冠動脈への血液供給を助けます。これは虚血性心疾患に伴う心不全には有効ですが、他の原因での心不全には有効ではありません。他にも2つくらい治療法はありますが、一長一短で、なかなか完璧といえるものではありませんでした。

 そのような状況の中、心臓そのものの収縮を活性化する治療方法が昨年9月、保険適応でついに登場しました。それは次回紹介します。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)