厚生労働省によると、梅毒患者数は、急増しており、平成24年の875人から同28年の4559人へ、4年間でなんと5倍以上にもなっています。患者を年代別にみると男性は40代がピークで20代~40代まで幅広く、女性は20代で男性より多く、突出しています。

 梅毒は、性行為などで起こる感染症で、症状が重くなると内臓にまで障害が生じ、また妊娠中の女性が感染すると、子供に重い障害が残る場合もあります。

 わたしは、このアウトブレークとも思われる原因は2つあると思います。日本の性教育のありかた、性病に関する日本人の知識のなさ、がそれらです。

 性教育は、中学生から徹底的にしてほしいと思います。ある統計によると、中学生の3~5%で性行為の経験があり、高校生の15~30%で性行為の経験があるといいます。さらに、女子高校生で性行為の経験がある人の8人に1人はクラミジアに感染しているということです。性教育を早めることには反論もあって、性行為にお墨付きを与えて、性行為の開始年齢を早めるのではともいわれています。しかし、例えばフィンランドでは、15歳時に学校で避妊具の入った袋を渡されます。その他の北欧諸国でも、徹底した早期からの性教育により、性病罹患(りかん)率減少を導き、性行為開始年齢の若年化は起きていないのです。

 一方、学校でも性教育は行われているものの、あまり具体的な避妊、性病対策といったことまでは行われていない学校が多い。また、日本の親子関係の中で、これを教育する家庭も少ないのが実情です。ですから、現在ある性教育のマニュアルを、VTRなどにして全国で同じ水準の性教育を徹底化することが、性感染症や、経済的理由による人工妊娠中絶の減少につながるのでは、と見ています。

 また他の先進諸国に比べ、日本人は、不特定な相手とのオーラルセックスに対し無頓着すぎるという指摘もあります。口を介した感染についても注意をしなければなりません。

 梅毒については、「傷害罪」につながりかねないケースもあり、さらなる注意が必要です。自分が梅毒などに感染していることを知りつつ、性行為をして、その結果として相手にも感染させた場合には、それが成立します。傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金となっています。

 ◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビではコメンテーターのほか、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など人気番組の医療監修も数多く務める。著書は「今すぐ『それ』をやめなさい!」(すばる舎)「ダイエットはオーダーメイドしなさい!」(幻冬舎)「ねぎを首に巻くと風邪が治るか?」(角川SSC新書)など。気分転換は週2回のヨガ。