「8020運動」は皆さんにとっても、なじみのある言葉だと思います。1989年(平元)から、厚生省(当時)と日本歯科医師会が提唱してきた「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう!」という運動です。開始当初の89年、達成者の比率がたった8%だったのに対し、2011年には40・2%、16年には51・2%と飛躍的に伸びています。親知らずを除いて通常28本ある大人の歯ですが、20本以上あればほとんどの食品をおいしくかみ砕いて食べることができ、生き生きとした老後を送れることは間違いないでしょう。

 ではいったい、何に気を付けたら8020を達成することができるのでしょうか。東京歯科大学歯科矯正学講座が行った研究に、興味深いデータがあります。300人以上の8020達成者の口を調べてみると、そのほとんどが正被蓋(せいひがい=かんだときに上の歯が下の歯を覆っている状態)であり、矯正治療の対象となるような反対咬合(こうこう=下顎や下の歯が突出した状態、いわゆる受け口)や開咬(上下の歯をかみ合わせたときに前歯がかみ合わない状態)の人はいなかったそうです。

 疫学的にみると、300人中10人程度は反対咬合であるため、8020を達成するためには、正被蓋で良好なかみ合わせが必要条件になるのでは、という見解です。また、8020達成者は男女ともにしっかりとした顎の骨格を保っていることも、特筆すべき点です。歯が残っていることで顎が退化せず、身体バランスへの良い影響にもつながるというわけです。感圧フィルムを用いた咬合力(かむ力)でも、20代の正常咬合者と比較して遜色ない結果が出ています。

 見た目の改善を目的に矯正治療を希望される若い世代の患者さんは多いのですが、「歯並びやかみ合わせを良くしておくことが、将来生き生きと生きるもとになるのですよ」と話すと、大変驚かれます。

 ◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。