先日、「シンデレラ体重」という言葉を目にした。若い女性の理想体重を指すそうだが、なんと標準体重を10キロ近く下回る数値だ。標準体重とは統計上もっとも病気になりにくいとされる体重を指すが、「シンデレラ体重」についての記事では「標準体重はぽっちゃりして見える」とさえ書かれていたから驚きだ。見た目を優先する美意識を追い求めて手にした「シンデレラ体重」は、裏を返せば健康上リスクがあるということ。では、痩せすぎると一体何がいけないのかはご存じだろうか。

▼ダイエットをする上でよく悪者にされるのが「脂質」。ヘルシーであることを強調するかのように油分○%カット、と記載されたパッケージをよく見かけたりもする。ところがこの脂質、人間の体を構成するうえではかなり重要な栄養分なのだ。

例えば人間の細胞の半分程度は脂質からできている。脳はもっと多く、6割ほどが脂質で構成されている。私の専門の1つ、「皮膚」においても、脂質には乾燥から肌を守る保湿という重大な役割が。美容液などにも含まれるセラミドは脂質の一種であり、天然の保湿成分だ。このセラミドを自らの肌で正常に分泌するためは、きちんと食事から脂質を摂取することが重要なのである。

過剰な脂質制限をし、体の脂肪を落とすだけ落とした「痩せすぎ」の人の皮膚は、乾燥がひどく、キメの乱れなどの特徴が多く見られる。これでは「シンデレラ」どころではないのではないだろうか。対して、適度な栄養素をきちんと摂取していれば、皮膚はしっとりしてキメが整い、ハリがあって血色がよい=血流が豊富な状態を保つことができるのだ。

▼健康長寿の地として有名なのがイタリアのサルデーニャ島では、オリーブオイルや魚を使った料理が多く、住民たちは良質な脂質をきちんと摂取していることが伺える。食文化だけが健康の要素ではないが、脂質を過剰に制限する必要はないということがわかる。

「太りすぎ」が健康上良くないのは自明だが、何事もバランスが肝心と考えると、「痩せすぎ」にも病魔や栄養不足がちらつくと認識すべきだろう。ぽっちゃりして見える「小太り」くらいがバランスがいいと言える理由だ。