昔から「焦げたものを食べるとがんになる」と、言われます。確かに、食べ物の焦げには発がん性があります。魚や肉に含まれる動物性タンパク質(正確にはトリプトファンやチロシンといったアミノ酸)が、焼かれることによって発がん性物質を作り出すのは、事実です。

しかし、それは体重60キロの人が、毎日1トン食べ続けた場合と考えられます。つまり、わたしたちが当たり前に焦げたものを食べる量で、健康に影響が出ることは、まずあり得ないというわけです。また、お米などの炭水化物、野菜や果物の焦げは安心です。医学的、科学的にも多くの研究者が実験をした結果、実際にがんが発生することはなかったことがわかっています。

同じ魚で、やはり間違った言い伝えがあります。魚を食べて、骨がのどに刺さったとき、どうしていますか? 「ごはんのかたまりをのみ込みなさい」と、おばあちゃんやおかあさんに言われたことがある人も、多いのではないでしょうか。しかしそれは間違いなのです。

「ごはんのかたまりをまるのみした」などと言ったら、耳鼻咽喉科の先生に怒られてしまいます。魚の骨がもし深く刺さっていたとしたら、ごはんをのみ込むことでますます深く入り込んでしまって手術が必要になった、というケースもあるくらいです。

少し引っかかっている程度のときに、ごはんを一口のみ込んだら取れた、という経験のある人がたまたまいて、このような間違った方法が普及したのかもしれません。ごはんをのみ込めば取れる程度の刺さり方であれば、何もしなくても自然に取れるはず。魚の骨がのどに刺さったときには、水などを飲んで様子を見て、なかなか取れないようなら、耳鼻咽喉科に行って抜いてもらいましょう。

そもそも、魚の骨がのどに引っかからないようにするための一番簡単な方法があります。それは、よくかむことです。よくかみさえすれば、あなたの健康を守ってくれるはずです!

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務め、今年10月に新シリーズを迎える。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。