前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺がんの治療で、内分泌療法(ホルモン療法)や化学療法(抗がん薬治療)を行った場合、治療中からさまざまな副作用があらわれます。内分泌療法では、男性ホルモンの作用を抑えるため、非ステロイド系男性ホルモン剤以外では通常、性欲が落ち、勃起障がい(ED)になり、乳房の女性化が見られることもあります。

また、高コレステロール血症になったり、脂質代謝も変化します。長期で見ると太りやすくなり、骨の密度が低下して、レアケースですが、閉経後の女性によく見られる骨粗しょう症に似た症状が出ることもあります。

急に男性ホルモンが低下することから、女性の更年期症状と似た症状が一過性に起きる人もいます。それは、例を挙げれば、のぼせ、ほてり、発汗、倦怠(けんたい)感、あるいはうつの傾向などです。

これらの副作用を軽減するために、適度な運動が有効です。うつ状態が続くときには、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの副作用の少ない抗うつ剤で症状は改善します。

抗がん薬を使った化学療法では、免疫が低下してしまいます。そこで、外出時はマスク、帰宅時には手洗いを欠かさないなど、風邪やインフルエンザなどの感染症に注意することが大切です。近年よく使われるようになった薬の「ドセタキセル」は、爪が変形したり弱くなったりするため、薬の投与前、投与中に指先を冷やしたり、爪にコーティング剤を塗って補強します。体にむくみがあるときは、締め付けがきつくない衣類を選ぶようにしましょう。

がん細胞が骨移転し、痛みがある場合は、痛みの緩和のため、薬を使います。場合に応じて「オピオイド」などの医療用麻薬を使用することもあります。麻薬と聞いて使用に抵抗を感じる患者さんもいますが、適切に使われれば依存の心配はなく、痛みを効果的に軽減することができます。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。