医師で作家の鎌田實氏の新連載「ピンピンひらり最新健康法」を展開中です。71歳の鎌田氏が、長寿時代の今、ピンピン健康に生きて、痛みや苦しみとは無縁で、ひらりとあの世に行きたいという自身の願望を込めて執筆。

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第13回「生き方の芯になる哲学を持つ」

ぼくの内科外来に、85歳の男性が家族と共にやってきました。北陸の方でした。有名な病院の紹介状を持っていました。悪性リンパ腫で、主治医から抗がん剤治療を提案されていました。セカンドオピニオンを求めてきたのです。

◆痛いことはもう嫌だ

男性は、自分の病気のことをきちんと分かっていました。「痛いことはもう嫌だ」とはっきり言いました。息子さんはドクター。父の強い意志を納得しつつ、最後の踏ん切りがつかなかったのです。ドクターとしては、父親を少しでも良くしたい。積極的な治療を受けさせたい。迷っていました。

◆死は怖くない

しかし息子として、1人の人間として、父の思いがよくわかる。彼の複雑な気持ちが理解できました。

「死は怖くないですか」というぼくの問いかけに、男性は「もう十分生きました」と言いました。

◆楽しい時間を過ごしたい

この診察の前日、孫も含めた家族全員で、諏訪中央病院近くの上諏訪の温泉旅館に泊まり、おいしいお酒と料理を楽しみました。こんな風にもうしばらく、楽しい時間を過ごせればいいというのです。

◆新型肺炎は残酷

自己決定ができると、納得しやすくなります。我慢もできます。新型肺炎が重症になったとき、苦しいだけではありません。亡くなる時も、家族は面会が難しい。「ありがとう」も「さよなら」も言えないのです。残酷すぎます。早く新型コロナウイルスの流行を止めなければいけません。今は自粛をしっかりやりましょう。明日に続きます。