本紙で前回、男性の泌尿器科の病気を説明してくれた、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授・高橋悟氏(59)が、「女性の頻尿・尿失禁」についてお話しします。日本女性の約2500万人もが、オシッコで困った経験を持っているというデータがあります。そのうち成人女性の約400万~500万人が尿失禁を経験、また頻尿に悩んでいる人も少なくありません。それでいて受診をためらう女性が多いことに、同氏は「我慢しないで相談して!」と診察を勧めています。

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トイレが近い頻尿やふとした拍子に尿がもれる尿失禁、尿もれといった尿トラブルは、女性にとってやっかいな病気です。それでいて、多数の女性がこうしたトラブルに悩まされていることに、驚かされます。日本では、40歳以上なら3~4割の人が尿もれを経験。20~30代の若い層でも1~2割が症状を訴えています。全体では400万~500万人が尿失禁を経験しているといわれ、よくある症状です。また、尿もれまではいかなくても、頻尿で悩んでいる人も少なくありません。

40歳以上での頻尿の程度を調べた「排尿症状の割合」のデータでは、「夜間頻尿」(1回以上)のある人が6割以上、続いて「昼間頻尿」(8回以上)のある人が約5割でした。

これだけ症状を訴える女性が多いのに、受診をためらう患者さんは少なくありません。全国30~59歳の1030人に尋ねた「尿もれに関する意識調査」(2010年、ユニ・チャーム調べ)によると「尿もれはあったが、実際にだれかに相談しましたか」という問いに、「してみたいと思わない」が40%、「してみたいと思うができない」が33・7%でほぼ8割を占めたのに対し、「実際に相談したことがある」は、8・4%に過ぎません。ほとんどの人は「年のせいだから仕方がない」とか「恥ずかしいから」と、我慢してしまう人がほとんどなのです。

しかし、頻尿や尿失禁は、職業、家事、子育てなどでアクティブに活動する女性を悩ます、れっきとした病気です。直接命にかかわることはないにしても、そうした「生活の質」(QOL=QualityofLife)の妨げになります。治療すれば改善できるのに、実際に受診する人がわずかなのは、かけがえのない人生がもったいない限りです。

男性の頻尿の主な原因が前立腺肥大症であるのに対して、女性の頻尿、尿失禁の原因の多くは、実は、妊娠・出産で生じた「骨盤底」の障害なのです。つまり、母親になるための「代償」という言い方ができるかもしれません。女性にとって、決して恥ずかしい病気ではないということを、ぜひ理解いただければと思います。少しだけ勇気をもって、かかりつけ医、あるいは専門医の診察を受けてください。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。