本紙で前回、男性の泌尿器科の病気を説明してくれた、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授・高橋悟氏(59)が、「女性の頻尿・尿失禁」についてお話しします。日本女性の約2500万人もが、オシッコで困った経験を持っているというデータがあります。そのうち成人女性の約400万~500万人が尿失禁を経験、また頻尿に悩んでいる人も少なくありません。それでいて受診をためらう女性が多いことに、同氏は「我慢しないで相談して!」と診察を勧めています。

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女性に最も多く見られる「腹圧性尿失禁」は、尿道を十分に締められないことから起こります。尿道をきちんと締められなくなるのは、骨盤底の緩みと尿道括約筋の機能低下が挙げられます。

骨盤底は緩んでたるんでしまうと、膀胱(ぼうこう)も尿道もグラグラと不安定な状態になり、下がってきたり、後ろの膣(ちつ)側に倒れ込んだりします。こうなると、膀胱の出口が開きやすくなり、尿道を締め付ける力も十分に働かなくなります。このため腹圧がかかったとき、尿が出ようとする力を抑えきれなくなるのです。

骨盤底が多少緩んでいても尿道括約筋の締まりがよければ食い止められるはずですが、それがもれてしまうのは、尿道括約筋の機能が衰え、十分に締められないためです。最後の鍵を握っているのは、尿道括約筋の能力なのです。

骨盤底が緩む原因には、妊娠、出産、女性ホルモンの分泌低下、加齢による筋力低下、肥満などがあります。妊娠中は3キロもある胎児と胎盤や羊水を支えるわけですから、骨盤底には大きな負担がかかります。加えて、出産時に「グーッ」と引き伸ばされ、筋肉が薄くなり緩んでしまうのです。産後に尿失禁が起こりやすいのはこのためです。

でも、若いときは回復も早く、ふくらんだ子宮が数カ月で元の大きさになるのと同様、伸びきった骨盤底の筋肉も4カ月ほどで元に戻ります。ただ1度傷んでしまった筋肉は完全には治りにくく、加齢とともに緩みやすくなります。経産婦に腹圧性尿失禁が多いのは、出産により骨盤底がダメージを受けているからだと考えられます。

また、更年期や閉経期前後になると、女性ホルモンの分泌が低下します。なかでもエストロゲンには尿道の筋肉やその周りの筋肉にハリをもたせる働きがあるので、分泌が減ると弾力がなくなり、骨盤底が緩んでしまうのです。

加齢によっても、体全体の筋力が低下するため、当然骨盤底筋群も弱って来ます。ほかに骨盤底が緩む原因として、肥満があります。肥満すると、脂肪が増えて筋肉が減ります。おまけに重い内臓や脂肪を支えなくてはならず、骨盤底は疲れ果てて伸びてしまうのです。