本紙で前回、男性の泌尿器科の病気を説明してくれた、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授・高橋悟氏(59)が、「女性の頻尿・尿失禁」についてお話しします。日本女性の約2500万人もが、オシッコで困った経験を持っているというデータがあります。そのうち成人女性の約400万~500万人が尿失禁を経験、また頻尿に悩んでいる人も少なくありません。それでいて受診をためらう女性が多いことに、同氏は「我慢しないで相談して!」と診察を勧めています。

   ◇    ◇    ◇

腹圧性尿失禁は、いつもれるかおおむね予想できますが、過活動膀胱(ぼうこう)による「切迫性尿失禁」は突然起こり、しかも大量にもれることがあるためより悩みは深刻です。

普通は準備が整っていないとき、脳は脊髄を通して膀胱に「待った」をかけ、尿を出さないようにします。ところが、過活動膀胱の原因として挙げられる脳や脊髄の障害が起こると、脳と膀胱との信号のやりとりがうまくいかなくなり、勝手に膀胱が収縮して、出してしまうのです。

しかし、このように原因のはっきりしたケースは、過活動膀胱全体の20%ほどです。残りの80%は原因がよくわかりません。加齢や骨盤底筋の緩みなど、いくつかの要因が重なって引き起こされると考えられます。こうした膀胱の過剰な反応によって、切迫性尿失禁が生じます。

過活動膀胱以外に、切迫性尿失禁の原因としては、膀胱や尿道の不調が考えられます。膀胱炎や尿道炎、膀胱結石、膀胱がんなどの病気があると知覚神経が過敏になり、実際より強く尿意を感じるため、膀胱が過剰反応を起こすのです。この場合、元の病気が治ると尿失禁も治まります。

その他の尿失禁の原因に、「混合性尿失禁」があります。腹圧性と切迫性の両方の症状があるものです。閉経期になるころから、このタイプが増えて来ます。骨盤底の緩みがベースにあり、加齢による筋力低下、尿道・膀胱の機能低下、過活動膀胱などが加わって起こります。

「溢流(いつりゅう)性尿失禁」は、尿の排出がうまくいかないために起こります。「膀胱の収縮が悪い場合」と「膀胱の出口や尿道が閉塞(へいそく)した場合」があります。前者は糖尿病により起こることがあります。糖尿病が進行すると末梢(まっしょう)神経がまひし、尿意を感じにくくなります。膀胱の収縮力も落ちているのでうまく押し出せず、尿が満タンになってチョロチョロもれます。ほかに子宮や卵巣、直腸などの手術をした際に膀胱の神経が傷ついて起こることもあります。後者は、重症な骨盤臓器脱が代表例。尿道の閉塞で尿がたまってもすっきり排出できず、膀胱がいっぱいになりあふれ出てしまうのです。