本紙で前回、男性の泌尿器科の病気を説明してくれた、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授・高橋悟氏(59)が、「女性の頻尿・尿失禁」についてお話しします。日本女性の約2500万人もが、オシッコで困った経験を持っているというデータがあります。そのうち成人女性の約400万~500万人が尿失禁を経験、また頻尿に悩んでいる人も少なくありません。それでいて受診をためらう女性が多いことに、同氏は「我慢しないで相談して!」と診察を勧めています。

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腹圧性尿失禁では「手術療法」が有効です。現在の主流は「TVT(Tension-freeVaginalTape)手術」です。膣壁(ちつへき)を小さく切開してテープを入れ、尿道の中ほどを支えるものです。そのテープの周囲にコラーゲンや結合組織が付着して、緩んだ靱帯(じんたい)を補強する役割を果たします。腹圧がかかったとき尿道が開かないようにテープが支えて、尿失禁を防ぐ仕組みです。このテープは心臓外科手術に用いるポリプロピレンという糸をメッシュ状に編んだもので、異物反応を起こすことはありません。

手順は次の通りです。

(1)切開する部分と、針やテープが通過する部分に局所麻酔を打ち、テープが入る膣壁の部分と、テープが出る下腹部の部分を1センチほど切開する。最近は腰椎(全身)麻酔で行うことが多い。

(2)反対側も同様にテープを通し、針先が下腹部の左右の切開部から出たら、膀胱(ぼうこう)内に生理食塩水を入れる。誤って針で膀胱を傷つけていないか、内視鏡で確認する。

(3)膀胱内の生理食塩水を追加し、患者さんに咳(せき)をしてもらう。局所麻酔のときは、この「咳テスト」で尿のもれを確認しながら、TVTテープを徐々に引き上げていき位置を確認。腰椎(全身)麻酔のときは咳テストの代わりに下腹部を圧迫し、尿の出方を見てテープの位置を調整する。つり上げすぎると尿が出にくくなり、緩すぎると尿失禁は治らない。ちょうどいい位置にするため慎重に調整する。

(4)TVTテープのカバーを少しずつ外す。再度テープの位置を確認。両側のテープカバーを引き抜くと、テープは周囲の組織にからまって動かなくなる。その後、傷口をすべて縫合する。

所要時間は30分ほど。体への負担が少なく3日程度の入院という施設が多いようです。手術の成功率は90%前後と高く、5年後の再発率も約15%です。日本では1999年から行われるようになり、健康保険も適用されます。

ただ、切迫性尿失禁の人には効果がありません。また膀胱機能が低下している人にも行いません。TVT手術後は一時的に少し尿が出にくい状態になることがあるため、元々排尿障害がある人は尿が出なくなってしまう恐れがあるからです。