北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟氏が、「ウィズコロナ時代」のロカボ(緩やかな糖質制限)について解説します。ロカボの語源は「Low(低い) Carbohydrate(炭水化物などの糖質)」。新型コロナウイルスとの共生で新しい生活様式が求められる中、食事に気を付けながら、毎日楽しく食べて健康になりましょうと、勧めています。

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日本の糖尿病の教科書には、<1>糖質は100%血糖値を上げる<2>タンパク質は体内に吸収されてから50~60%がゆっくり糖に変わり、血糖上昇に寄与する<3>脂質は消化に時間がかかり、食後かなり時間を経てから10%ぐらいが糖に置き換わる、ことを示した図が書かれています。

1994年に米国糖尿病学会が患者向けの本に掲載した図なのですが、米国糖尿病学会は2004年の改定版でこの図を消しています。確かに1型糖尿病で全くインスリンを出せない人はタンパク質、脂質でも血糖値は上昇しますが、一般の人や2型糖尿病の人では糖質だけが血糖値を上げ、タンパク質、脂質はインクレチンというホルモンを出させてインスリンの分泌を促進し、血糖値を上げるどころか、糖質による血糖上昇を軽減してくれることが分かったからです。

「食べ順ダイエット」をご存じの方は多いと思います。同じ食事内容でも、先に食物繊維やタンパク質、脂質を食べ、糖質を最後にすると、血糖の上昇にブレーキがかかります。糖尿病の教科書に載っている図の通りなら、先にタンパク質や脂質を食べようが、糖質を食べようが同じように血糖値を上げるはずですが、食べ順が効く。タンパク質、脂質が腸から出させるインクレチン効果でインスリン分泌が早くなるのです。

科学的根拠に基づいて米国糖尿病学会はドラスチックにガイドラインを変えました。しかし、日本では薬物療法についての論文はよく読まれていますが、食事療法の論文を読んで勉強している医師はほとんどいません。管理栄養士を含め、だから今もって「タンパク質も脂質も結局は血糖を上げますからトータルカロリーを控えましょう」という指導をしてしまうのです。

 

◆山田悟(やまだ・さとる)1970年(昭45)、東京生まれ。慶応大医学部卒。糖尿病専門医として多くの患者と向き合う中、カロリー制限による食事療法の限界に直面し、ロカボを提唱している。「糖質制限の真実」「カロリー制限の大罪」(ともに幻冬舎新書)など著書多数。