感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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中国本土でも武漢市及び湖北省が実質的に閉鎖される対応が取られました。いわゆる「ロックダウン」です。武漢市は人口1000万人を超えますが、広さは関東地方に匹敵します。それほど閉塞(へいそく)感はないでしょう。しかし現地の邦人が取り残されました。その邦人の帰国のためにチャーター便で対応されました。人道的に仕方ない話ですが、感染管理の仕事をしていると、嫌な予感が…。よくある感染を扱う映画でも、この救出者に感染者が紛れ込んでいて、「パート2」が製作されるという流れの予感です。

第1便が着いて、帰国したみなさんはウイルス検査としてPCR施行され、ホテルや施設などに「隔離2週間」という対応でした。既に有症状者と検査陽性者がいるという情報も流れて来ます。冷静に考えれば、飛行機ほど「3密」な空間はあまりありません。さらに第2便と続いて、また待機施設で経過観察中にさらに陽性者が出てしまう状況。施設によっては洗面所や浴場は共用の施設もあるとのこと。致し方ない対応でしたが、中国現地で行われている体育館でパーテーション隔離よりはましというところです。トイレの悲惨な状況がネットにも流れ、中国当局もトイレの洗浄人員を募集している状況です。

この頃になるとSARS(重症急性呼吸器症候群)よりも今回のコロナは毒性は低いが、感染拡散期間は長いことが推測されました。それは気道分泌物だけでなく、消化管排泄(はいせつ)物にウイルスが含まれていることが関与しているようでした。つまりトイレの共用は危険と判断されます。コロナウイルス自体はアルコールで消毒できるとしても、アルコールは表面までしか浸透しないので、汚染物が散らばる状況で特に下痢をしていると危険です。逆に考えれば、日本ほどトイレをきれいにする国はないので、日本では排泄物からの拡散はそこまで憂慮しなくていい可能性もあります。

チャーター便は次々と来て、帰国者はPCR検査にかけられ、そして陽性者が帰国直後者と施設待機者からポツポツと出て、隔離入院という流れが続きました。